国保連請求とは、介護事業所が提供したサービスの費用を、国民健康保険団体連合会を通じて市町村へ請求する手続きです。この国保連請求の代行を検討するとき、最初に確認が要るのは言葉です。「代行」と呼ばれているものには2種類あり、必要な手続きが違います。片方は国保連の制度、もう片方は単なる業務の委託です。 どちらを頼むのかを決めないまま見積もりを取ると、話が噛み合いません。
「代行」には2つの意味があります
1つ目は、国保連の電子請求受付システム上の「代理請求」です。代理人として登録した事業者が、事業所に代わって請求データを送信します。
東京都国保連は、これを「『代理人』が事業所に代わって行う『代理請求』」と説明しています[1]。代理人になれる形として、同一事業者、第三者(民間の請求事務業者等が代行)、地方自治体の3つが挙げられています[1]。
2つ目は、請求事務そのものの委託です。実績の入力、内容の点検、返戻分の修正といった作業を外部に任せる形で、送信は自事業所で行います。この形であれば、代理人の登録は必要ありません。
どちらを選ぶかは、自事業所に何が足りないかで決まります。人手が足りないなら事務の委託、複数の事業所の請求をまとめたいなら代理請求です。2026年9月14日時点で、この2つを混ぜて「代行」と呼んでいる説明が多く見られます。見積もりを取るときは、どちらの形かを先に確認してください。
同じ「代行」でも、必要な準備がまったく違います。 代理請求には委任契約と代理人の登録、電子証明書の手配が伴います。事務の委託だけなら、委託契約と受け渡しの手順を決めれば始められます。
代理請求の手続き
代理請求を使う場合の流れは、東京都国保連が段階で示しています[1]。
- 事業所は代理人と委任契約を結び、代理人へ請求事務等を委任する
- 代理人が介護電子請求受付システムで登録申請を行う
- 国保連合会が代理人を確認する
- 承認後、代理人が電子証明書の発行依頼を行う
規模の上限もあります。代理人は100事業所まで請求できるとされています[1]。複数の事業所を持つ法人が、本部でまとめて請求する形にも使えます。
委任した事業所側は、電子証明書の発行申請が不要になります[1]。事業所ごとに証明書を取る手間と費用が省ける点は、法人単位で見ると小さくありません。
自社でやる場合の実費
外注の判断をするなら、自社でやる場合の費用を先に把握してください。目に見える実費は電子証明書です。
東京都国保連が案内している発行手数料は、介護・障害共通証明書が13,900円、介護保険証明書が7,800円で、いずれも有効期間は3年です[2]。同ページには「途中解約をしても、手数料は返金されませんのでご注意ください」という注記もあります[2]。
証明書 | 手数料 | 有効期間 |
|---|---|---|
介護・障害共通証明書 | 13,900円 | 3年 |
介護保険証明書 | 7,800円 | 3年 |
金額は連合会や時期で変わる可能性があります。自事業所の請求先の案内を確認してください。
これに、伝送ソフトの費用と、請求事務にかかる人件費が乗ります。外注の見積もりと比べるときは、この3つを足した額と比べてください。 証明書の費用だけを見ると、外注が高く見えます。
人件費の測り方も決めておいてください。月末から10日までの期間に、請求事務へ充てている時間を数えます。実績の入力、点検、送信、返戻対応。この4つに分けて記録すると、どの工程を出すべきかが見えます。丸ごと外注する前に、時間のかかっている工程を特定してください。 点検だけを出す形で足りる場合があります。
委託しても残る責任
ここが最も大事な点です。事務を外に出しても、請求の主体は事業所のままです。
命令第2条は、請求の方法をこう定めています[3]。
指定居宅サービス事業者、指定地域密着型サービス事業者又は指定居宅介護支援事業者は、介護給付費等を請求しようとするときは、指定居宅サービス、指定地域密着型サービス又は指定居宅介護支援の事業を行う事業所ごとに、…電子情報処理組織を使用して…行うものとする。
「事業所ごとに」が請求の単位です。代理人が送信しても、請求しているのは事業所です。
届出の義務も事業所側にあります。命令第4条は「請求事業者は、第二条の規定による電子情報処理組織又は光ディスク等による…請求を開始しようとするときは、あらかじめ、次に掲げる事項を審査支払機関に届け出なければならない」としています[3]。届け出るのは請求事業者であって、代理人ではありません[3]。
返戻が出たときの最終的な責任も事業所側です。 委託契約の中で、返戻対応がどこまで含まれるかを明記してください。返戻の読み方は介護レセプトの返戻理由にまとめました。
返戻の扱いは見積もりで差が出る部分です。返戻分の修正と再請求まで含む契約と、当月の請求送信だけを請け負う契約では、月額が同じでも中身が違います。「返戻が出たら誰が直すのか」を1行で確認してください。 自事業所で直す前提なら、そのための人と時間は残しておく必要があります。
請求できる期限も変わりません。東京都国保連は「介護給付費はサービス提供月の翌々々月の1日から起算して2年、総合事業費は5年」と案内しています[4]。委託先が期限を過ぎれば、請求できなくなるのは事業所です。
個人情報の扱い
利用者の情報を外部に渡すことになるため、法令上の位置づけを確認します。
まず、委託は第三者提供にあたりません。個人情報の保護に関する法律第27条第5項第1号は、「個人情報取扱事業者が利用目的の達成に必要な範囲内において個人データの取扱いの全部又は一部を委託することに伴って当該個人データが提供される場合」を、第三者に該当しない場合として挙げています[5]。利用者から個別に同意を取り直す必要はありません。
代わりに、監督の義務が生じます。同法第25条は次のとおりです[5]。
個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。
厚生労働省と個人情報保護委員会のガイダンスは、この点を介護報酬の請求事務に即して書いています[6]。
医療・介護関係事業者は、検査や診療報酬又は介護報酬の請求に係る事務等個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合、法第23条に基づく安全管理措置を遵守させるよう受託者に対し、必要かつ適切な監督をしなければならない。
「必要かつ適切な監督」の中身も示されています。委託契約に安全管理措置の内容を盛り込んで受託者の義務とすること、業務が適切に行われていることを定期的に確認することが挙げられています[6]。
再委託についての記述もあります。「業務が再委託された場合で、再委託先が不適切な取扱いを行ったことにより、問題が生じた場合は、医療・介護関係事業者や再委託した事業者が責めを負うこともあり得る」とされています[6]。契約書に再委託の可否と、事前報告または承認の手続きを入れてください。
従業者側の秘密保持も別に定められています。指定居宅サービス等の基準第33条は「指定訪問介護事業所の従業者は、正当な理由がなく、その業務上知り得た利用者又はその家族の秘密を漏らしてはならない」としています[7]。
委託先を選ぶときの確認項目
ガイダンスは、委託先を選ぶときの留意事項も挙げています[6]。契約前の確認項目としてそのまま使えます。
- 個人情報を適切に取り扱っている事業者を委託先として選定する
- 契約において、個人情報の適切な取扱いに関する内容を盛り込む(委託終了後の個人データの取扱いも含む)
- 再委託を予定している場合は、再委託先の選定と確認について契約で配慮する
- 受託者が個人情報を適切に取り扱っていることを定期的に確認する
- 取扱いに疑義が生じた場合には、説明を求め、必要に応じ改善を求める
受託者の体制を確認する方法についても記述があります。体制や規程の確認に加えて「必要に応じて個人データを取り扱う場所に赴き、又はこれに代わる合理的な方法により確認を行った上で」評価することが望ましいとされています[6]。
「見に行く」まで書かれている点は覚えておいてください。 委託先が遠方なら、オンラインでの説明や第三者認証の確認で代えることになります。
契約書に入れておきたい項目も、ここから決まります。安全管理措置の内容、委託終了後のデータの取扱い、再委託の可否と手続き、定期的な確認の方法、疑義が生じたときの対応。この5つが入っていれば、ガイダンスが求める監督の形は満たせます[6]。ひな形をそのまま使う場合も、この5項目があるかだけは確認してください。
判断の目安
外注するかどうかは、人の状況で決まります。
厚生労働省は、介護人材について「2026年度には約240万人(+約25万人(6.3万人/年))、2040年度には約272万人(+約57万人(3.2万人/年))が必要」という見込みを示しています[8]。2022年度の215万人との比較です[8]。
請求事務に人を割けない事業所が増えていく前提で考えてください。判断の材料は3つです。
- 請求事務にかかっている時間を測る(実績入力、点検、返戻対応の3つに分けて)
- 電子証明書と伝送ソフトの費用を足す
- 代理請求まで頼むのか、事務の委託だけかを決める
費用の相場感はBPOの費用相場に、訪問介護の請求実務は訪問介護の請求の流れにまとめています。
まとめ
国保連請求の代行を検討するなら、代理請求と事務の委託を分けてください。代理請求は電子請求受付システム上の制度で、委任契約と代理人の登録、電子証明書が要ります[1]。事務の委託だけなら、その手続きは不要です。
どちらの形でも、請求の名義と責任は事業所に残ります[3]。個人情報については、委託先の監督が法律上の義務です[5][6]。
自事業所の請求体制を見直す場合は介護レセプト代行に対応範囲を出しています。個別の相談は無料相談からどうぞ。
※内容は2026年9月14日に参照したe-Gov法令検索、厚生労働省、東京都国民健康保険団体連合会の公開情報に基づきます。手数料と手続きは連合会ごとに異なるため、自事業所の請求先の案内を確認してください。
参考文献・出典
- 代理請求について — 東京都国民健康保険団体連合会(参照 2026-09-14)
- インターネット請求について — 東京都国民健康保険団体連合会(参照 2026-09-14)
- 介護給付費及び公費負担医療等に関する費用等の請求に関する命令 — e-Gov法令検索(デジタル庁)(参照 2026-09-14)
- 請求時効について(介護事業所等の皆様) — 東京都国民健康保険団体連合会(参照 2026-09-14)
- 個人情報の保護に関する法律 — e-Gov法令検索(デジタル庁)(参照 2026-09-14)
- 医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンスについて(平成29年4月14日 医政発0414第6号ほか) — 厚生労働省・個人情報保護委員会(参照 2026-09-14)
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準 第33条 — e-Gov法令検索(デジタル庁)(参照 2026-09-14)
- 介護人材確保に向けた取組について — 厚生労働省(令和6年7月12日)(参照 2026-09-14)


