人材開発支援助成金が不支給になる理由の多くは、訓練の中身ではなく手続きと事業主側の要件です。研修の質が高くても、書類と日程が合っていなければ支給されません。準備の順番を間違えると、そこで止まります。

落ちる会社の多くは、古い版の要件を見ています。 要件を知らなかったわけではありません。 版の管理から確認します。提出物と期限の逆算はAI研修の助成金申請に書きました。この記事では、その手前にある不支給要件と返還の話を扱います。

不支給要件は共通要領に書かれています

まず探す場所を確認します。コース別のパンフレットを読んでも、不支給要件は載っていません。

厚生労働省は「雇用関係助成金の申請にあたって」のページで、全助成金に共通する「第1 共通要領」を公開しています[1]。2026年9月13日時点の版は令和8年4月8日現在です[1]。不支給要件は、この共通要領の0302に置かれています[1]。

同じページには「支給要件確認申立書」(共通要領様式第1号)も置かれています[1]。この申立書の設問が、そのまま不支給要件の一覧になっています。 探す手間が省けます。 申請書類を作る前に、この様式を開いて設問に1つずつ答えてみてください。1つでも該当すれば、その時点で申請しても通りません。

設問には、事業主の属性と過去の行為に関するものが並びます。労働保険料の納付状況、過去の不正受給の有無、支給申請の前後の期間に解雇をしていないか、賃金の未払いが無いか、法令違反が無いか。研修の内容とは無関係の項目です。訓練の計画を練る前に、ここを確認してください。 該当する項目があれば、計画を立てる時間が無駄になります。

厚生労働省は同じページで「各助成金の個別の要件も満たす必要」があるとしています[1]。共通要領の要件と、コース別の要件は別立てです。片方だけを見て準備を進めると、もう片方で落ちます。

適用される要領は「計画届を出した日の版」です

ここが2026年でいちばん事故が起きやすい箇所です。

厚生労働省は、人材開発支援助成金の過去の支給要領一覧のページに「※計画届提出時点のものを参照してください」と注記しています[2]。支給申請の時点の版ではありません。計画届を出した日の版です。

令和8年度は改正が続いています。

表1 2026年9月13日時点で公開されている改正(人材開発支援助成金)

改正日

内容

令和8年4月8日

コース共通の改正[4]

令和8年5月14日

疎明書に関する改正[4]

令和8年8月3日

複数コースの改正[4]

令和8年8月10日

熊本地震への対応[4]

雇用関係助成金の支給要領そのものも更新されており、2026年9月13日時点で公開されているのは令和8年9月10日現在の版です[5]。

半年前に読んだ内容が、そのまま通用するとは限りません。 計画届を出す直前に、その日の版を開いて要件を確認してください。コースによっては申請書類のページが提出時期ごとに分かれており、提出時期を間違えると様式そのものが違います。

版の確認は、印刷して日付を記録に残す形をおすすめします。数か月後に支給申請をする段階で、「どの版で計画を立てたか」を自分で説明できる状態にしておくためです。労働局とのやり取りで版の違いが問題になったとき、手元に記録があるかどうかで進み方が変わります。

会計検査院が指摘した、返還になった理由

実際に返還を求められた事例が公表されています。数字で見ておくと、どこが危ないかが分かります。

会計検査院は令和5年度決算検査報告で、10労働局を対象に113事業主・244件・2億8163万余円を検査しました[3]。そのうち、訓練経費の全額を負担していなかった事態が2事業主・4件・239万円、教育訓練関連の役務提供により実態として負担していない事態が30事業主・79件・1億0495万円で、合計32事業主・83件・1億0735万円でした[3]。

検査対象113事業主のうち32事業主です。 約3割が不適正と判断されたことになります(会計検査院が公表した件数からの計算)。

令和4年度決算検査報告では、5事業主分について支給が適正でなかったとされています[6]。兵庫労働局で3事業主2,604,000円、岡山労働局で1,039,000円、宮崎労働局で1,534,000円です[6]。報告は原因について、事業主が誠実でなかったなどのため支給申請書等の記載内容が事実と相違していたにもかかわらず、労働局において審査が十分に行われないまま支給決定が行われていた、としています[6]。

この2つの報告から読めることは1つです。支給決定を受けた後でも、検査で覆ることがあります。 入金されたら終わりではありません。

令和4年度の報告が挙げた原因の書き方にも注目してください。事業主側の問題と、労働局側の審査の問題の両方が書かれています[6]。労働局の審査を通ったという事実は、後の検査で適正と判断されることを保証しません。通ったから正しい、という理解は成り立ちません。

「実質無料」の訓練は返還対象になり得ます

令和5年度の指摘のうち、金額が大きいのは「教育訓練関連の役務提供により実態として負担していない」事態でした[3]。

仕組みを順に見ます。まず訓練機関に受講料を支払い、助成金を受け取ります。ところが、その訓練機関から別の名目で入金を受けていたり、役務の提供を受けていたりします。結果として、実態では訓練経費を負担していません。この形が指摘されました[3]。

厚生労働省も「『訓練経費』は無料になりません」という周知資料を出しています(令和8年4月[7])。

営業の場面では、この形が別の言葉で示されます。

  • 受講料の一部を後から返金する
  • 他のサービスを無償で付ける
  • 紹介料や協力金として支払う

いずれも「事業主が訓練経費を負担した」という前提を崩します。 助成金を前提にした「実質無料」という説明を受けたら、その場で契約せず、労働局に確認してください。確認の電話は10分で終わります。契約してから確認すると、解約の話になります。

訓練機関側に悪意がない場合もあります。制度の理解が古いまま案内しているケースです。相手の善意は、返還の判断に影響しません。 負担の実態を自分で確かめてください。

不正受給と判断されたときの措置

措置の重さを確認しておきます。返還だけでは済みません。

厚生労働省は不正受給を「事業主等が偽りその他不正の行為により本来受けることのできない助成金の支給を受け、又は受けようとすることをいいます」と定義しています[8]。

表2 不正受給と判断された場合の措置(2026年9月13日時点[8])

措置

内容

返還

全額返還

延滞金

不正受給日の翌日から発生

加算金

不正受給した額の2割に相当する額

受給停止

不正受給決定日から5年間、雇用関係助成金を受給できない

公表

公表基準に該当する場合、事業主名および代表者名等を公表

受給停止の期間には注意が要ります。厚生労働省は「全額返納されていない場合、この期間は延長されます」としています[8]。5年で終わるとは限りません。

公表は会社名と代表者名です。取引先や採用候補者が検索すれば見つかります。金額の問題ではなくなります。

受給停止の影響も広い範囲に及びます。人材開発支援助成金だけでなく、雇用関係助成金の全体が5年間受けられません[8]。キャリアアップ助成金も、業務改善助成金と同じ枠組みの雇用関係助成金も対象です。1件の不正で、その後の人事施策の選択肢が減ります。

社労士に任せていても事業主の責任です

申請を社会保険労務士に依頼している会社が多くあります。それでも責任は事業主に残ります。

厚生労働省は、都道府県労働局等が公表した不正受給に関与した社会保険労務士等の一覧を公開しています[9]。関与した側も公表の対象です。 逆に言えば、事業主だけが処分を受ける仕組みでもありません。

実務上の対応は2つです。1つ目は、提出する書類の内容を自分で確認することです。訓練の実施日、受講者、支払いの事実が、出勤簿や賃金台帳と合っているかを見てください。2つ目は、依頼している社労士に、適用される要領の版を確認することです。計画届を出した日の版を見ているかどうかを聞くだけで足ります。

書類を作る人と、内容に責任を持つ人は別です。申請書に押すのは会社の印です。

依頼するときの伝え方も決めておいてください。「この研修を実施したい。使える助成金があるか調べてほしい」という順で伝えます。「助成金が使える研修を探してほしい」と頼むと、順番が逆になります。前者の頼み方をすると、助成金の要件に合わせて研修の中身が決まります。研修が目的で、助成金は手段です。 順番が逆になると、社員にとって価値のない研修に時間を使うことになります。

落ちないために先に確認する5点

申請の前に確認する項目を絞ります。

  • 共通要領様式第1号「支給要件確認申立書」の設問に、該当するものが1つも無いか[1]
  • 計画届を出す日の版の要領を見ているか[2]
  • 訓練経費を自社が全額負担しているか。返金・無償提供・紹介料が無いか[3][7]
  • 訓練の実施記録が、出勤簿・賃金台帳と一致しているか
  • 提出時期に対応した様式を使っているか[4]

3つ目が、金額として最も大きい指摘の対象です。 契約書と入金の記録を残してください。振込の記録だけでなく、値引きや特典の有無が分かる見積書と契約書の原本を保管します。

4つ目の突合も、実際には落ちやすい項目です。訓練を実施した日に、その社員が出勤簿で休みになっていたり、別の現場に出ていたことになっていたりします。実施記録を作る人と、出勤簿を管理する人が別だと起きます。訓練が終わった週のうちに、両方を並べて確認してください。助成金の制度そのものはAI研修の助成金にまとめています。

まとめ

今日やることは1つです。共通要領の様式第1号をダウンロードし、設問に答えてみてください。10分で終わります。ここで該当する項目があれば、申請の準備に入る前に解消する必要があります。

そのうえで、計画届を出す日に要領の版を確認してください。印刷して日付を残しておくと、数か月後の支給申請で役に立ちます。当社のAI研修は人材開発支援助成金の利用を前提に設計しており、書類の準備も含めてご相談いただけます。詳細はAI研修のページに、個別の相談は無料相談へどうぞ。自社の現在地は1分でわかるAI活用度診断で確かめられます。

※制度の内容・要領の版は2026年9月13日時点で厚生労働省が公開しているものです。改正が続くため、申請前に最新版をご確認ください。

参考文献・出典

  1. 雇用関係助成金の申請にあたって — 厚生労働省(参照 2026-09-13)
  2. 人材開発支援助成金の過去の支給要領一覧 — 厚生労働省(参照 2026-09-13)
  3. 人材開発支援助成金の支給に当たり、訓練実施機関から入金を受けることにより訓練経費の全てを負担していなかった事業主について — 会計検査院 令和5年度決算検査報告(参照 2026-09-13)
  4. 人材開発支援助成金 — 厚生労働省(参照 2026-09-13)
  5. 雇用関係助成金支給要領 — 厚生労働省(参照 2026-09-13)
  6. 雇用保険の人材開発支援助成金の支給が適正でなかったもの — 会計検査院 令和4年度決算検査報告(参照 2026-09-13)
  7. 「訓練経費」は無料になりません — 厚生労働省(参照 2026-09-13)
  8. 雇用関係助成金の不正受給について — 厚生労働省(参照 2026-09-13)
  9. 都道府県労働局等が公表した不正受給に関与した社会保険労務士等 — 厚生労働省(参照 2026-09-13)