AI研修に使える助成金は厚生労働省の人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)で、中小企業は経費の75%と賃金1人1時間1,000円が助成されます(2026年8月時点[1][2])。「AI研修をやりたいが、費用が引っかかる」。そう考えて調べ始めた方は、いい線を突いています。中小企業なら、人材開発支援助成金の「事業展開等リスキリング支援コース」を使うことでAI研修の経費の75%が戻り、受講中の賃金にも1人1時間あたり1,000円が助成されます[1][2]。ただし、2026年8月3日の改正で「対象外になるAI研修」がはっきり示されました[3]。ここが落とし穴です。知らずに発注すると、実施し終えたあとに1円も出ない事態が起こり得ます。

この記事では、制度の中身と助成額の試算、改正で引かれた線、申請の段取りまでを、出典つきで一気に確認できるようにしました。読み終えたときに、「うちの研修は対象になるか」「ならないなら、どう設計を変えれば対象になるか」に自分で答えられる状態を目指します。

AI研修に使える助成金はどれか?

使う制度は1つです。迷う必要はありません。厚生労働省の人材開発支援助成金、なかでも「事業展開等リスキリング支援コース」[1]。新規事業への進出やDX(業務のデジタル化)に取り組む会社が、社員に新しい知識・技能を身につけさせる訓練をしたとき、経費と訓練中の賃金の一部を国が持ちます。

助成の中身は次のとおりです(2026年8月時点)[2]。

表1 事業展開等リスキリング支援コースの助成率・助成額

項目

中小企業

大企業

経費助成率

75%

60%

賃金助成(1人1時間あたり)

1,000円

500円

賃金助成の単価は2025年4月の改定で960円から1,000円に上がりました[2]。中小企業に手厚い設計です。

ただし経費助成には、1人あたりの上限額があります。訓練時間が長いほど上限も上がる階段式です[2]。

表2 経費助成の上限額(受講者1人あたり・2026年8月時点)

訓練時間

中小企業

大企業

10時間以上100時間未満

30万円

20万円

100時間以上200時間未満

40万円

25万円

200時間以上

50万円

30万円

eラーニング・通信制(時間によらず一律)

15万円

10万円

定額制サービス(1人1か月あたり)

2万円

2万円

賃金助成の対象は、研修を受けている社員の研修時間分の給与です[2]。OFF-JTは業務と切り離して行うため、研修中も給与は発生し続けます。その負担を国が一部持ちます。講師謝金や教材費は経費助成の側です。

数字だけでは大きさが伝わりにくいので、表1・表2の率と上限[2]をもとに試算してみます。受講料1人20万円・10時間の対面研修に社員3人を出した場合、経費助成は60万円の75%で45万円。実質負担は15万円です。さらに研修中の賃金に対して、10時間×3人×1,000円で3万円の賃金助成が別に付きます。60万円の研修が、実質12万円の負担で実施できる計算です(上限額の範囲内に収まるケースの試算)。

対象になる研修の基本条件は3つ。通常業務と切り離して行うこと(OFF-JTと呼びます)、訓練時間が10時間以上あること、受講者が雇用保険の被保険者であることです[2]。ここは以前と変わりません。変わったのは中身の条件です。

そもそも、うちは「中小企業」の助成率で受けられるのか?

表1の75%は「中小企業事業主」の率です。線引きは、雇用関係助成金に共通する定義で機械的に決まります。感覚は関係ありません。自己申告でもありません。資本金の額と常時雇用する労働者数のどちらか一方を満たせば中小企業です[1]。

表3 中小企業事業主の範囲(資本金・労働者数のいずれかを満たせばよい。2026年8月時点)

業種

資本金(または出資額)

常時雇用する労働者数

小売業(飲食店を含む)

5,000万円以下

50人以下

サービス業

5,000万円以下

100人以下

卸売業

1億円以下

100人以下

その他(製造・建設・運輸など)

3億円以下

300人以下

多くの会社は、この表で迷いなく中小企業に収まります。判断が割れるのは2つの場合です。資本金を厚くしている会社と、パート・アルバイトを多く抱えて労働者数の数え方に迷う会社。たとえば資本金8,000万円の卸売業は資本金の基準(1億円以下)で中小企業に入りますし、資本金1億円のサービス業でも労働者が100人以下なら中小企業です。どちらか一方を満たせばよい、という点を覚えておいてください。「常時雇用」の数え方には細かい取り扱いがあるので、境界線上にある場合は自社で判断せず、管轄の労働局に確認してください[1]。

なお、中小企業に当たらなくても大企業の率(経費60%・賃金500円)で使えます[2]。率は下がります。ただし対象の判定や申請の流れは同じです。

もう一つ、社会保険の適用や雇用保険料の納付といった、雇用関係助成金に共通する前提条件も満たす必要があります[1]。労働保険料の未納がある、過去に不正受給で不支給の処分を受けている、といった場合は対象外です。ここは制度の入口の話なので、自社が該当しそうなら設計に入る前に確認してください。

2026年8月の改正で何が変わったのか?

線が引かれたのは職務との距離です。2026年8月3日の改正で、職務に直接結びつかない「汎用的な生成AI研修」は対象外になりました[3][4]。DX・GX関連の訓練であっても、「職業人として共通して必要な内容」や「職務に間接的にしか関係しない内容」は対象になりません[4]。全社員を集めてChatGPTの使い方を一通り教える型は、もう通りません。

どこに線が引かれたのか、対比で見るとはっきりします[3][4]。

表4 改正後の「対象になるAI研修・ならないAI研修」の線引き

対象になる例

対象外になる例

営業担当者が提案書の作成に生成AIを使う訓練

プロンプトの書き方だけを学ぶ一般講座

経理の月次資料づくりをAIで自動化する訓練

職務を特定しない全社向けのAI教養研修

現場部門の業務データをAIで分析する訓練

「AIとは何か」を概説するだけの座学

受講回数にも上限が付きました。1人あたり1年度に3回まで、eラーニングは1年度に1回まで[3]。年間を通じて細かい講座を受けさせ続ける使い方は、もうできません。不正受給への対応も厳しくなっており、支給決定前に自主的な申告がない場合は、原則として事業主名が公表されます[4]。

では全社展開そのものが不可能になったのか。そうではありません。部署ごとに業務を特定した研修を積み上げれば、結果として全社に行き渡ります。営業部は提案書作成、経理は月次資料、現場は日報と写真整理。分け方を変えるだけで、同じ人数に同じ予算を投じても対象になります。

厳しくなった、と読むのはまだ早いです。職務に結びつけて設計しさえすれば、助成率も上限額も改正前のままです。変わったのは順番だけです。

自社の研修が対象になるか、3つの質問で確かめる

細かい要件の前に、まず次の3つに答えてみてください。改正後の審査で見られるのは、突き詰めればこの3点です。

  1. 「誰の」研修かを言えるか。 「全社員」ではなく「営業部の5名」「経理担当の2名」のように、部署と人数まで特定できているか
  2. 「どの業務の」研修かを言えるか。 「AIリテラシー向上」ではなく「見積書・提案書の作成」「月次決算資料の作成」のように、業務名で言えるか
  3. 研修後に「何が変わる」かを言えるか。 「意識が変わる」ではなく「提案書のたたき台作成をAIで行う体制になる」のように、業務の変化として言えるか

3つとも業務名で答えられるなら、見込みはあります。逆に1つでも「全社」「リテラシー」「意識改革」といった言葉でしか答えられないなら、その研修は2026年8月以降の基準では対象外と判断されるおそれがあります[3][4]。危ういのはこの組み方です。

この質問は、助成金のためだけのものではありません。答えられない研修は、助成の可否以前に、業務の変化につながらないことが多いのです。制度の改正は、研修の設計をまともにする圧力として使えます。

言い換えれば、審査に通る研修は、たいてい効果も出る研修です。

対象になる研修はどう設計すればいいのか?

鍵は計画届です。「誰の、どの業務のための訓練か」を示せるかどうかで決まります。設計の段階で、次の3点を固定してください。

  1. 業務を特定する。 「営業部の見積書・提案書作成」のように、部署と業務名まで絞る
  2. カリキュラムに職務を書き込む。 「生成AI入門」ではなく「生成AIによる提案書作成実務」とする。科目名・演習内容のレベルまで職務の言葉で書く
  3. 演習の題材を自社の実物にする。 練習用の例文ではなく、自社の見積書や議事録を使う。成果物がそのまま業務で使える形にする

順番が逆になっていないかを確かめてください。先に業務改善の計画があり、その手段として研修が置かれる形です。「学ばせたい内容」から始めて職務名を後付けすると、計画届の段階で辻褄が合わなくなります。AX総合研究所のAI研修も、この業務特定型を前提に設計しています。

外部の研修会社に発注するなら、最初にこう聞いてください。「うちの業務に合わせてカリキュラムの科目名と演習題材を変えられますか」。既製の汎用カリキュラムしか出せない会社の研修は、内容の質とは別の理由で、改正後の助成対象としては通りにくくなっています[4]。

申請はいつまでに何をするのか?

流れ自体は単純です。ただし順番を間違えると、その時点で終わります。全体像を先に示します[2]。

表5 申請の流れと期限(2026年8月時点)

順番

やること

期限

1

研修の設計・見積の取得

計画届の前まで

2

訓練実施計画届を労働局に提出

研修開始日の6か月前〜1か月前

3

研修の実施

計画どおりに実施(変更時は変更届)

4

支給申請

研修終了日の翌日から2か月以内

5

審査・支給決定

労働局の審査を経て入金

覚える締切は実質2つです。研修開始日の1か月前までに計画届、研修終了日の翌日から2か月以内に支給申請。とくに前者が重要です。順番を間違えて先に研修を始めてしまうと、内容がどれだけ良くても助成は受けられません。ここは救済されません。申請は2025年度からjGrants(国の電子申請システム)での提出が標準になっています[2]。

実務で詰まりやすいのは、計画届に添付する書類です。訓練の日程表、カリキュラム、講師の経歴、見積書。外部の研修会社に頼む場合、これらは発注先から取り寄せることになります。逆算の起点は締切の1か月前ではありません。その書類が揃う日です。研修会社の対応が遅ければ、それだけで1か月が消えます。

研修会社に見積を依頼する時点で、「人材開発支援助成金の計画届に使う」と伝えておいてください。必要な書式や記載の粒度が決まっているため、伝えてあるだけで出し直しが減ります。

もう1点。研修の内容や日程が計画届から変わるときは、変更届が必要です[2]。受講者の欠席や日程のずれは実務では起こります。変わったら都度届け出る、と最初から決めておくほうが安全です。

もう1つ、制度そのものの寿命に注意が必要です。このコースは令和4年度から令和8年度末(2027年3月)までの時限措置として設計されており、令和9年度以降どうなるかは決まっていません(2026年8月時点)[2][5]。計画届の提出期限から逆算すると、この助成金を前提にAI研修を組めるのは、実質的にあと数か月です。年明け以降に検討を始めた場合、年度内の実施はかなり窮屈になります。

まとめ:最初に決めるのは研修内容ではなく「業務」

改正後の助成金が出るのは、「この業務を変えたい」と言える会社です。「社員にAIを学ばせたい」では足りません。逆に言えば、業務を1つ特定しさえすれば通ります。それだけで、経費の75%を国が持つ制度が、少なくとも今年度中は使えます[1][2]。

決めるのは1つだけです。自社のどの業務から変えるか。候補の見当をつけたい方は、1分でできるAI活用度診断からどうぞ。助成金が使える研修になるかどうか、設計段階から確かめたい方は、無料相談で個別にお答えします。

※制度の要件・金額は2026年8月時点の情報です。助成金の要件は年度の途中でも変わるため、申請前に必ず厚生労働省の最新資料と管轄の労働局で確認してください。本記事は制度の一般的な解説であり、個別の支給を保証するものではありません。

参考文献・出典

  1. 人材開発支援助成金(厚生労働省) — 厚生労働省(参照 2026-08-24)
  2. 人材開発支援助成金「事業展開等リスキリング支援コースとは?」最大75%助成・令和8年8月改正の変更点を解説【2026年度】 — 補助金ポータル(参照 2026-08-24)
  3. 【2026年8月3日改正】リスキリング助成金はどう変わった?——"汎用的なAI研修"は対象外に、eラーニングは年1回まで — Canal AI Blog(参照 2026-08-24)
  4. 【2026年8月改正】そのAI研修、助成金の対象外かも|リスキリング支援コースの変更点と対策 — カトルセ(参照 2026-08-24)
  5. 人材開発支援助成金 2026年度(令和8年度)版|4コースの助成率・支給額・申請方法を完全解説 — リカステップ(参照 2026-08-24)