業務改善助成金は、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げ、生産性向上につながる設備投資等を行った場合に、その費用の一部を助成する制度です[2]。
設備投資の助成金であると同時に、賃上げの助成金です。 この2つがセットになっている点が、他の制度といちばん違うところです。AIが対象になるかを見る前に、そこを確認します。
賃金の引上げとセットの制度です
コースは引上げ額で分かれます。50円、70円、90円の3つです[2]。
コース | 1人 | 2〜3人 | 4〜5人 | 6〜7人 | 8人以上 |
|---|---|---|---|---|---|
50円(30人未満) | 40万円 | 70万円 | 70万円 | 90万円 | 110万円 |
70円(30人未満) | 50万円 | 100万円 | 130万円 | 180万円 | 230万円 |
90円(30人未満) | 100万円 | 240万円 | 270万円 | 360万円 | 450万円 |
助成率は、事業場内最低賃金が1,050円未満なら5分の4、1,050円以上なら4分の3です[2]。
ここで注意が要ります。1,050円という基準は事業場内最低賃金であって、地域別最低賃金ではありません。 2026年度の地域別最低賃金は最低額が1,085円です[4]。引上げ前の自社の最低賃金がいくらかで、助成率が変わります。
賃金引上げの実施時期も決まっています。申請マニュアルは「事業場内最低賃金の引上げは、交付申請書の提出後から地域別最低賃金の改定日の前日までに実施をする必要があります。申請前または改定日以降の賃上げは認められません」としています[2]。複数回に分けての引上げも認められません[1]。
引き上げた後の維持も条件です。過去に交付を受けた事業場で、助成事業完了日以後の賃金額が定めた事業場内最低賃金額を下回る場合は、不交付要件に当たります[2]。
要領に「AI」「ソフトウェア」という語はありません
本題です。AIツールやクラウドサービスの利用料が対象になるかを確認します。
交付要領、Q&A、申請マニュアル、リーフレットの全文を見ても、「AI」「ソフトウェア」「クラウド」「サブスクリプション」という語は出てきません(2026年9月14日時点[1][2][3])。
明文が無いということは、対象外と決まっているわけでもありません。 交付要領の別紙3が定める経費区分に当てはまるかどうか、そして所轄労働局長が「生産性の向上、労働能率の増進に資する」と判断するかどうかで決まります[1]。
Q&Aは生産性向上の意味をこう説明しています[3]。
助成対象となるのは「生産性の向上、労働能率の増進に資する」と認められる設備投資等です(要綱第3条)。生産性向上には、例えば事業場の売上の増加や収益の改善も含まれます。
判断の幅があるということは、書き方で結果が変わるということです。 申請前に所轄の労働局かコールセンター(0120-366-440)に確認してください[5]。
確認するときは、製品名だけを伝えても答えが返りません。「どの作業に何分かかっていて、この設備を入れると何分になるか」を添えてください。生産性の向上が説明できる形になっているかどうかが、判断の中心にあります。
設備更新の場合はさらに条件が付きます。Q&Aは、同等性能の機器設備等を導入することは生産性の向上が認められないため対象にならないとし、既存の機器設備等より高い能力を有する点について、事業実施計画書等に具体的な数値等や客観的な根拠資料を示しつつ具体的に記載するよう求めています[3]。
対象になり得る3つの経路
要領の経費区分を読むと、AIツールが乗り得る経路が3つあります。
経費区分 | 要領の定義 | AIで考えられる形 |
|---|---|---|
委託費 | 調査会社、システム開発会社等への委託費用(就業規則の作成・改正及び賃金制度の整備は除く) | 自社向けのシステム開発を外部に委託する |
借損料 | 器具機械借料及び損料、物品借料及び損料等の費用(会場借料を除く) | ライセンス契約による利用料 |
機械装置等購入費 | 機器・設備類の購入、製作又は改良の費用 | 特定業務専用のシステムを稼働させる機器 |
2つ目の借損料について、要領は期間契約の扱いを定めています[1]。
リース・ローン契約、ライセンス契約、保守契約等、費用の支出が、交付要綱第6条の決定の属する会計年度以外の年度にも支出される場合は、当該会計年度の支出に限る。なお、助成対象経費の上限は、契約時から3年分までのものとする。
Q&Aも同じ趣旨を書いています。複数年分を助成実施年度に支払った場合は、実施年度を含め3年分が助成対象になります[3]。クラウドサービスの利用料を扱うなら、この「ライセンス契約」の記述が根拠になります。
システムの導入そのものは、具体例として明記されています。申請マニュアルの助成対象経費の具体例には「顧客・在庫・帳票管理システムの導入による業務の効率化」「POSレジシステム導入による在庫管理の短縮」が挙がっています[2]。リーフレットにも「顧客管理情報のシステム化」があります[6]。
落ちやすい除外規定とパソコンの扱い
対象外の規定も読んでおきます。ここに当たると通りません。
要領 別紙3(注7)は、次のものを除外しています[1]。単なる経費削減を目的とした経費、通常の事業活動に伴う経費(事務所借料、光熱費、従業員賃金、交際費、消耗品費、通信費、汎用事務機器購入費等)、広告宣伝費・販売促進費(パンフレット、動画、写真等の作成、展示会の出展、市場調査、営業代行利用、ランディングページの作成、マーケティングツール活用等)です[1]。
AIツールが落ちるとすれば、この3つのどれかです。 「通信費」に読まれる場合、「汎用事務機器」に読まれる場合、「マーケティングツール」に読まれる場合です。申請書では、特定の業務工程をどう変えるかを具体的に書いてください。
社内の文書作成を速くしたい、というだけの説明では通りにくくなります。どの帳票を、月に何件、誰が何分かけて作っていて、それがどう変わるのか。工程が特定できていれば、単なる経費削減との違いが示せます。
パソコンの扱いは3層になっています。原則として、パソコン(タブレット端末やスマートフォン及びその周辺機器を含む)は機械装置等購入費から除かれます[1]。ただし要領(注3)は例外を置いています[1]。
なお、「パソコン(タブレット端末やスマートフォン及びその周辺機器)」であっても、例えば、POSシステム、会計給与システム等、特定業務専用のシステムを稼働させるための目的で導入することが明らかである場合は助成対象とする場合がある。
もう1つ、物価高騰等要件の特例事業者では、パソコンが対象に読み替えられます。ただし新規購入に限られ、既存設備の入れ替えは対象になりません[3]。
相見積もりの規定もあります。契約予定額が10万円未満の場合を除き、原則として同一条件により二者以上の見積もりを取ります[1]。自社や関連会社、代表者の親族が作成した見積書は認められません[3]。
締切は最低賃金の発効日の前日です
日程が厳しい制度です。ここを外すと申請できません。
申請期間は「令和8年9月1日から、申請事業場の都道府県において適用される地域別最低賃金の発効日の前日、または同年11月30日のいずれか早い日まで」です[6]。
2026年度の地域別最低賃金は、全国加重平均1,177円で前年度から56円の引上げとなり、令和8年10月1日から12月2日までの間に順次発効します[4]。多くの県では、実質的に10月中が締切になります。 自社の都道府県の発効日を先に確認してください。
事業完了期限は交付決定年度の1月31日です[6]。やむを得ない理由がある場合は、理由書を添えて3月31日までとする申請もできます[1]。
ここで日程上の問題が出ます。申請マニュアルは「交付申請から交付決定まで約3か月程度かかります」としています[2]。11月末に申請すると、交付決定は2月頃です。1月31日の事業完了期限に間に合いません。 早い時期に申請するほど、実行できる幅が広がります。
予算の範囲内で交付されるため、申請期間内に募集が終了する場合もあります[6]。同一事業所の申請は年度内1回までです[6]。
交付決定前の発注は、いかなる理由でも認められません
制度でいちばん多い失敗です。要領は次のように書いています[1]。
交付決定前に発生した費用。また、補助事業実施期間外に発生した費用。※いかなる理由であっても事前着手は認められません。
申請マニュアルは同じ箇所に「事前着手(発注含む)」と補って書いています[2]。納品でも契約でもなく、発注の時点で対象外になります。
Q&Aも「導入機器等の納品や契約は、必ず交付決定後でなければならず、交付決定前に納品や契約された場合は助成を受けることはできません」としています[3]。
賃金引上げのほうは基準が違います。こちらは交付申請書の提出後であれば構いません[2]。設備は交付決定後、賃金は交付申請後。この2つの基準日を取り違えないでください。
Q&Aには具体例があります。交付申請日が9月10日で賃金引上げ日が10月1日なら可、賃金引上げ日が9月1日なら不可という形です[3]。申請より前に賃上げを済ませてしまうと、その分は対象になりません。「先に賃上げして、あとから申請する」という順番は成り立ちません。
研修費は別の制度です
AI導入では研修も必要になります。ただしこの制度の守備範囲ではありません。
要領は「謝金」について「外部講師による従業員向けの研修、導入機器の操作研修等に対するもの」とし、上限を1回10万円まで、回数は5回までと定めています[1]。導入した機器の操作研修に付随する範囲であり、研修そのものを助成する制度ではありません。
研修費を助成対象にしたい場合は、人材開発支援助成金を見てください[7]。制度が違うため、同一の設備投資等に要する費用でなければ、両方から助成を受けられます[3]。不支給になる理由は人材開発支援助成金が不支給になる理由にまとめました。
経営コンサルティングにも要件があります。要領は、中小企業診断士、社会保険労務士、ファイナンシャル・プランニング技能士(1級または2級)等の国家資格を有し、常態として経営コンサルティングを業とする者、または金融機関が行う経営相談に限るとしています[1]。Q&Aはこれに経営革新等支援機関を加えています[3]。AI導入の支援を委託する場合、相手がこの要件に当たるかを先に確認してください。
まとめ
順番は3つです。
- 自社の事業場内最低賃金を確認します。1,050円を境に助成率が変わります[2]
- 自社の都道府県の地域別最低賃金の発効日を確認します。その前日が締切です
- どの経費区分で申請するかを、所轄の労働局に相談します
ソフトウェアだけを導入したい場合は、デジタル化・AI導入補助金2026のほうが素直です。業務改善助成金は、賃上げと設備投資を同時に進める会社のための制度です。どの業務を変えるかから相談したい場合はAI導入コンサルティングへ、現在地の確認は1分でわかるAI活用度診断、個別の相談は無料相談へどうぞ。
※制度の内容・金額・日程は2026年9月14日時点で厚生労働省が公開しているものです。年度で要件が変わるため、申請前に最新の要領とQ&Aをご確認ください。
参考文献・出典
- 業務改善助成金 交付要領 — 厚生労働省(令和8年4月22日適用)(参照 2026-09-14)
- 業務改善助成金 申請マニュアル — 厚生労働省 労働基準局賃金課(2026年9月)(参照 2026-09-14)
- 業務改善助成金Q&A(令和8年9月〜) — 厚生労働省(令和8年9月8日)(参照 2026-09-14)
- 全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました — 厚生労働省(令和8年9月3日)(参照 2026-09-14)
- 業務改善助成金 — 厚生労働省(参照 2026-09-14)
- 令和8年度業務改善助成金のご案内 — 厚生労働省(参照 2026-09-14)
- 人材開発支援助成金 — 厚生労働省(参照 2026-09-14)


