リスキリング助成金とは、従業員に新しい知識や技能を身につけさせる研修の費用を、国や自治体が一部負担する制度の総称です。中小企業が使える制度は、国の人材開発支援助成金、都道府県の助成金、区市町村の補助金の3層に分かれています。どれか1つに決め打ちすると、研修の長さや受ける人によっては1円も出ない場合があります(2026年9月時点の要件)[1][7]。

「リスキリング 助成金」で検索すると、制度の名前は次々に出てきます。けれども、名前だけでは選べません。判断に使う条件は、受けるのが誰か、研修が何時間か、中身が何か、いつ申請するかの4つです。この記事の表は、厚生労働省・東京しごと財団・文京区の2026年度の要綱と公式ページで確認できた値だけで作りました。

国・東京都・区の制度を1枚にすると

表1は、東京都内の中小企業を例に、3層の制度を並べたものです。国の制度は全国で使えます。都と区の制度は、所在地の要件を満たす会社だけが使えます。

表1 中小企業が研修に使える主な助成金・補助金(2026年9月時点。各制度の要綱・公式ページから作成[2][4][5][7][8][9])

制度

実施

対象の研修

助成率(中小企業)

上限

申請の締切

人材開発支援助成金 事業展開等リスキリング支援コース

国(厚生労働省)

事業展開・DX・GXに伴い必要となる職務直結の訓練。10時間以上のOFF-JT

経費75%、賃金1人1時間1,000円

1人30万円(10時間以上100時間未満)

訓練開始日の6か月前から1か月前までに計画届

人材開発支援助成金 人材育成支援コース

国(厚生労働省)

職務に関連した10時間以上のOFF-JT

経費45%(正規雇用の場合)、賃金1人1時間800円

1人15万円(10時間以上100時間未満)

同上

人材開発支援助成金 人への投資促進コース(定額制訓練)

国(厚生労働省)

サブスクリプション型の研修サービス

経費60%

1人1か月2万円

定額制サービスの契約期間の初日の6か月前から1か月前までに計画届

DXリスキリング助成金

東京都(東京しごと財団)

自社のDX推進に必要な知識・技能の研修。3時間以上10時間未満

経費の4分の3

1人1研修75,000円、1社100万円

研修開始予定日の1か月前まで

事業外スキルアップ助成金

東京都(東京しごと財団)

職務のスキルアップのための公開研修。3時間以上10時間未満

中小企業2分の1、小規模企業3分の2

1人1研修25,000円、1社150万円(事業内と合算)

研修開始予定日の1か月前まで

中小企業人材強化支援事業補助金(リスキリング)

文京区

事業活動の拡大やDXに資する講座の受講・資格の取得。代表者・役員も対象

2分の1

1社10万円

講座の申込前に事前申請

国の人材開発支援助成金は、雇用保険の被保険者である労働者が対象です[2][4]。都の2制度も、対象は申請企業の従業員で、代表者と個人事業主本人は含まれません。役員は雇用保険に入っている場合だけ従業員として扱われます[7]。

表に載せなかった制度もあります。教育訓練給付金は、一定の要件を満たす人が厚生労働大臣の指定講座を修了したときに、本人へ費用の一部が支給される給付です[10]。一般教育訓練なら経費の20%、上限10万円です[10]。「リスキリング 助成金 個人」で出てくるのはこちらです。会社が払った研修費には充てられません。

区市町村の制度は、文京区のほかにも各地にあります。中小機構のJ-Net21「支援情報ヘッドライン」では、国と都道府県の補助金・助成金を地域とカテゴリで探せます[11]。本社のある区市町村の産業振興の窓口とあわせて確かめてください。

申請の窓口と出し方も3層で違います。国は管轄の労働局に計画届を出し、雇用関係助成金ポータルからの電子申請もできます[1]。電子申請にはGビズIDの取得が必要です[4]。都はJグランツでの電子申請が基本で、使えない場合は紙でも受け付けます[7]。文京区は郵送か区役所の経済課の窓口です[9]。

10時間を境に、国と都の制度が入れ替わります

表1を研修の長さで読み直すと、国と東京都の制度は重なっていません。境目は10時間です。国の人材開発支援助成金は、事業展開等リスキリング支援コースも人材育成支援コースも、訓練時間が10時間以上であることが条件です[2][4]。東京都のDXリスキリング助成金と事業外スキルアップ助成金は、1研修の総研修時間が3時間以上10時間未満であることが条件です[7][8]。

したがって、2時間の講座を5回受ける計10時間の研修は国の側に入り、半日6時間の研修は都の側に入ります。境目で注意したいのは、9時間半で組んだ研修を国の助成金の前提で発注してしまう場合です。国の要件は10時間以上なので、この研修は国の側に入りません。東京都内の会社なら、都の制度で検討します。都の側で数えるときも、昼休みなど賃金が発生しない時間は総研修時間に含めません[7]。

長さのほかにも、国と都で扱いの違う点があります。

  • 賃金の助成: 国は研修中の賃金も1時間あたりで助成します(事業展開等リスキリング支援コースの中小企業は1,000円)[2]。例外もあります。eラーニング・通信制・定額制サービスによる訓練は経費の助成だけで、賃金の助成は対象外です。eラーニングと通信制の経費の上限は、中小企業で1人15万円です[2]。都は研修を労働時間内に行い所定の賃金を払うことを条件にしていますが、賃金そのものは助成しません[7]
  • 定額制(サブスク)の研修: 国は人への投資促進コースで経費の60%を助成します[5]。都のDXリスキリング助成金は、サブスクリプション形式の研修を対象外にしています[7]
  • eラーニング: 国の事業展開等リスキリング支援コースは、2026年8月3日以降に出した計画届の分から、同じ労働者のeラーニングは1年度に1回までです[3]。都はeラーニングの場合、標準学習時間で3時間以上10時間未満を数えます[7]
  • 重ねがけ: 都の2制度は、同じ研修で国や地方公共団体の助成を受けていないことを条件にしています[7][8]。文京区も、他の行政機関から同種の補助金を受ける事業は対象外です[9]

では、生成AIの研修はどちらに入るのか。国の事業展開等リスキリング支援コースは、2026年8月3日の改正で、職務に間接的に必要な内容や職業人として共通して必要な内容を対象外にしました。汎用的なプロンプトの作り方だけを学ぶ訓練は対象外、営業担当者が提案書の作成に生成AIを使う訓練は対象、という例が示されています[3]。改正後は、研修の中身も問われます。経過措置もあります。改正前に契約や申込をしていた研修は、従前の支給要領が適用される場合があります[1][3]。この改正の中身はAI研修の助成金|2026年8月改正後の要件で詳しく書きました。都のDXリスキリング助成金は、対象を「申請企業等のDX推進のために必要な知識・技能」の研修と定めています[7]。生成AIの研修が当たるかどうかは、研修の中身が自社のDX計画とどうつながるかで決まります。申請前に事務局へ確認してください。

同じ受講料で、助成額はいくら違うか

受講料が同じでも、研修の長さと制度によって戻る額は大きく変わります。表2は、受講料が1人6万円(税抜)の研修に従業員5人を出した場合の試算で、助成率と上限は2026年9月時点のものです。研修の長さは10時間と6時間の2通りにしました。

表2 受講料1人6万円(税抜)で5人が受けた場合の助成額の試算(2026年9月時点の助成率・上限から計算[2][4][7][8][9])

研修の長さ

使う制度

経費の助成

賃金の助成

会社の負担(経費)

10時間

国 事業展開等リスキリング支援コース(75%)

225,000円

50,000円(10時間×1,000円×5人)

75,000円

10時間

国 人材育成支援コース(45%)

135,000円

40,000円(10時間×800円×5人)

165,000円

6時間

都 DXリスキリング助成金(4分の3)

225,000円

なし

75,000円

6時間

都 事業外スキルアップ助成金(中小企業2分の1)

125,000円(1人25,000円の上限)

なし

175,000円

6時間

文京区の補助金(2分の1)

100,000円(1社10万円の上限)

なし

200,000円

経費の助成だけを比べると、国の事業展開等リスキリング支援コースと都のDXリスキリング助成金は同じ225,000円です[2][7]。差がつくのは賃金の助成です。10時間の研修なら、国の側に50,000円が上乗せされます。賃金の助成は1時間あたりの定額なので、研修の時間と受講者の人数が多いほど、国の側の上乗せは大きくなります。eラーニングなどは除きます[2]。

事業外スキルアップ助成金は、助成率より先に1人1研修25,000円の上限で額が決まります。受講料が1人5万円を超えると、2分の1を掛けても上限の25,000円で止まります[8]。受講料が高い研修ほど、DXリスキリング助成金との差が開きます。

助成金はどれも後払いです。国は支給申請までに訓練経費の全額を支払っておくことを求めています[2]。都は、経費を申請企業の口座から振り込みで払うことを条件にし、従業員個人が立て替えた分は対象外です[7]。表2の「会社の負担」は最終的な額で、研修の時点ではいったん受講料の全額を用意する必要があります。

表2はあくまで上限と率だけの計算です。都の制度は消費税を助成対象経費から外しています[7]。国の制度には、1事業所あたりの年度の上限や受講回数の上限もあります[2][4]。実際の申請では、自社の条件で計算し直してください。研修費の相場そのものはAI研修の費用相場|助成金後の実質負担にまとめています。

選ぶ順番は「誰が・何時間・何を・いつ」

制度を名前から選ぶと、要件の確認が後回しになります。順番を逆にしてください。次の順番で絞ると、使えない制度を早い段階で外せます。

  1. 受けるのは誰か。 社長本人なら、国と都の制度は使えません。代表者も対象にしている区市町村の補助金を探します[7][9]。従業員なら、雇用保険の被保険者かどうかを確かめます[2]
  2. 研修は何時間か。 10時間以上なら国の人材育成支援コースか事業展開等リスキリング支援コース、3時間以上10時間未満なら、都内の会社は都の制度です[2][4][7]。受け放題のサービスは、時間ではなく1人1か月あたりで助成額が決まります[5]。研修の日程を組む段階で、どちらの制度を使うかを決めておきます
  3. 研修の中身は何か。 新しい事業やDXの職務に直結する訓練なら事業展開等リスキリング支援コース、職務に関連する一般の訓練なら人材育成支援コース、受け放題の研修サービスなら人への投資促進コースです[2][4][5]
  4. いつまでに出すか。 国も都も、研修が始まる1か月前が申請の期限です[2][7]。国は訓練が終わった翌日から2か月以内に支給申請も要ります[2]
  5. 同じ研修に2つの制度を重ねていないか。 都の制度と区の制度は、同じ研修で国の助成を受ける場合は対象になりません[7][9]

この順番を当てはめると、たとえば次のようになります。従業員20人の卸売業で、営業部の3人に、生成AIで見積書と提案書のたたき台を作る研修を受けさせたいとします。受けるのは雇用保険に入っている従業員です。研修を10時間以上で組めば、国の側に入ります。中身は営業の職務に直結するので、事業展開等リスキリング支援コースを候補にします。研修の開始を11月の中旬にするなら、計画届は1か月前の10月の中旬までに出す、という段取りになるイメージです。

事業展開等リスキリング支援コースでは、計画届と一緒に「事業展開等実施計画」を出します。人事や人材育成の計画に基づく訓練として申請する場合は、その計画について認定経営革新等支援機関の確認を先に受ける必要があります[2]。この書類の準備にかかる日数も、締切の逆算に入れてください。

4番目の締切は、制度そのものの期限とも重なります。雇用保険法施行規則の附則は、事業展開等リスキリング支援コースと人への投資促進コースの支給を令和9年3月31日までの間と定めています[6]。東京都の2制度は、交付申請の受付が令和9年2月28日までで、研修は令和9年3月31日までに始まるものが対象です[7][8]。

表3 申請の締切と研修の期間(2026年9月時点[2][6][7][8][9])

制度

申請の締切

研修・事業の期間

制度の期限

国 人材開発支援助成金

訓練開始日の6か月前から1か月前までに計画届。終了の翌日から2か月以内に支給申請

計画届のとおりに実施

事業展開等・人への投資は令和9年3月31日まで

都 DXリスキリング助成金・事業外スキルアップ助成金

研修開始予定日の1か月前まで。受付は令和9年2月28日まで

令和8年4月1日から令和9年3月31日までに開始し、令和9年8月31日までに終了

令和8年度の募集(予算を超えると受付期間内でも終了することがある)

文京区

講座の申込前に認定申請。受付は令和9年3月31日まで

令和10年3月31日までに受講・取得を完了する見込み

予算額に達するまで

附則が区切っているのは、研修の期間ではなく支給の期間です[6]。支給申請と審査の期間も要ります。年度内に使うなら、研修の終了日を早めに置き、管轄の労働局に日程を確かめてください。計画届から逆算した具体的な段取りは、AI研修の助成金申請|提出物と期限を逆算するに書きました。

まとめ

最初に決めるのは制度の名前ではありません。研修を誰に、何時間受けさせるかです。そこが決まれば、表1のどの行に入るかも決まります。締切は表3で読めます。

AX総合研究所のAI研修は2時間×5回の計10時間で、国の時間の要件(10時間以上)に合わせて組んでいます。時間は条件の1つです。支給されるかどうかは、研修の中身と計画届の審査で決まります。自社の研修をどの制度に当てるか、業務のどこから始めるかを先に確かめたい方は、無料相談でご相談ください。

※制度の要件・金額は2026年9月時点の各制度の要綱・公式ページに基づきます。助成金の要件は年度の途中でも改正されるため、申請前に厚生労働省・管轄の労働局、東京しごと財団、各区市町村の最新の案内で確認してください。この記事は制度の一般的な説明で、個別の支給を約束するものではありません。

参考文献・出典

  1. 人材開発支援助成金 — 厚生労働省(参照 2026-09-26)
  2. 令和8年度版 事業展開等リスキリング支援コースのご案内(令和8年4月8日版) — 厚生労働省・都道府県労働局(参照 2026-09-26)
  3. 人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)改正:令和8年8月3日からの変更点について — 厚生労働省・都道府県労働局(参照 2026-09-26)
  4. 令和8年度版 人材育成支援コースのご案内(令和8年4月8日版) — 厚生労働省・都道府県労働局(参照 2026-09-26)
  5. 令和8年度版 人への投資促進コースのご案内(令和8年4月8日版) — 厚生労働省・都道府県労働局(参照 2026-09-26)
  6. 雇用保険法施行規則(附則第34条・第35条) — e-Gov法令検索(デジタル庁)(参照 2026-09-26)
  7. 令和8年度 DXリスキリング助成金 募集要項 — 公益財団法人東京しごと財団(参照 2026-09-26)
  8. 令和8年度事業外スキルアップ助成金 — 公益財団法人東京しごと財団(参照 2026-09-26)
  9. 文京区中小企業人材強化支援事業補助金(リスキリング) — 文京区(参照 2026-09-26)
  10. 教育訓練給付金 — 厚生労働省(参照 2026-09-26)
  11. 支援情報ヘッドライン — 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21(参照 2026-09-26)