運送業のAI活用とは、配車指示や日報の集計、荷主からの受注の書き起こしといった事務所の作業を生成AIに下書きさせ、運行管理者や配車係が確かめてから使う方法です。
2024年4月から、時間外労働の上限と改善基準告示の拘束時間・休息期間が厳しくなり、ドライバー1人が働ける時間を延ばせなくなりました[1][2]。残る手は、配車係と運行管理者が受注の転記と配車指示の連絡に使っている時間を減らすことです。AX総合研究所は、中小の運送会社が生成AIを取り入れるなら、事務所の作業から始めるのがよいと考えます。
運送会社の時間は、どこで足りなくなっているのか
不足しているのは、ドライバー1人が働ける時間です。その上限が労働基準法と厚生労働大臣の告示で決まりました。
時間外労働の上限は原則月45時間・年360時間で、臨時的な特別の事情があっても年960時間です[1]。同時に改正された改善基準告示(厚生労働大臣告示「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」)は、拘束時間・休息期間・運転時間に細かな上限を置いています[2]。
政府の物流革新緊急パッケージ(2023年10月6日)は、何も対策を講じなければ2024年度に14%、2030年度に34%の輸送力が不足する可能性があると試算していました[4]。2023年時点の、対策を打たなかった場合の見通しです。国土交通省が2026年7月10日に公表した「トラックドライバーの1運行当たりの平均拘束時間に関する調査」では、1運行あたりの荷待ち・荷役等時間は2時間2分でした[5]。前年度より1時間16分短い数字です。改善は進んでいます。厚生労働省のサイトによると、改正物流効率化法に基づく基本方針は、1運行の荷待ち・荷役等時間を2時間以内にする目標を掲げています[1]。
ドライバーの人手不足対策というと、採用と賃上げが先に挙がります。どちらも必要です。ただ、採用が進まない間も荷物は届きます。そこで当社が先に勧めるのは、配車係と運行管理者の事務時間を減らし、荷待ちの記録を荷主との交渉材料にすることです。採用難の会社での位置づけ方は人手不足の会社がAIを使う理由で論じました。
当社が勧める入口は、事務所の5つの作業です
配車係と運行管理者は、毎日同じ形の作業を繰り返します。紙やFAXを読んで別の表に打ち直す作業と、決まった項目の集計です。生成AIの得意分野はこの2つです。人の手に残る部分も、下の一覧に載せました。
業務 | AIに任せる部分 | 人が残す部分 |
|---|---|---|
配車指示 | 配車表から各ドライバー向けの指示文を作る | 誰をどの便に乗せるかの決定 |
受注のテキスト化 | FAXの画像や通話の文字起こしを受注一覧の形にする | 原本との照合、受けるかどうかの判断 |
日報・乗務記録の集計 | 荷主別・ドライバー別の荷待ち時間などを集計する | 記録そのものの正しさの確認 |
荷主への連絡文 | 遅延連絡や荷待ち改善の依頼文の下書き | 送るかどうか、条件の判断 |
ドライバー教育資料 | 指導項目に沿った教材とテスト問題の下書き | 指導の実施と記録 |
配車指示の文面をつくる
配車を決めるのは配車係です。任せるのは、決定済みの割り当てをドライバーごとの指示文に書き直す部分です。積地・卸地・時間指定・荷姿・注意事項を、配車表の1行から1通の連絡文に起こします。
点検役を頼む方法もあります。「この配車表で、1日の拘束時間が13時間を超えそうな行と、連続運転が4時間を超えそうな行を指摘してください」と頼む使い方です。AIの指摘は目安です。勤怠と運行記録計で確かめるのは運行管理者です。
FAX・電話の受注をテキストにする
荷主の依頼がFAXと電話で届く会社では、受付係が受注表に打ち直します。FAXの画像を生成AIに読ませると、荷主名・日付・積地・卸地・品名・重量を表の形で返します。電話は録音の文字起こしから、要点だけを受注表の項目に合わせて抜き出させます。読み違いはゼロになりません。手書きの数字、かすれた印字、訂正印の重なりは、とくに誤りやすい箇所です。試験運用では、入力データを学習に利用しない設定の法人向けプランを選び、個人宅の届け先が載ったFAXは最初の10枚から外します。
2025年4月1日に施行された改正貨物自動車運送事業法で、運送契約の締結時等の書面交付と、実運送体制管理簿の作成・保存が義務になりました[6]。電話で受けた内容がテキストで残っていれば、書面を作るときの元になります。記載事項と対象範囲は、国土交通省の資料でご確認ください。
日報と乗務記録を集計する
乗務記録(輸送安全規則でいう業務の記録)には、荷主の都合で待機した地点、到着日時、荷役の開始・終了日時を書く決まりがあります[3]。荷主別の荷待ち時間の合計を出すには、紙の記録を1枚ずつ表に打ち直す手間がかかります。
当社の提案は、紙からの転記と集計を生成AIに委ね、荷主別・曜日別の荷待ち時間の一覧を月1回作ることです。この一覧が、荷主に待機時間の短縮や料金の見直しを申し入れるときの根拠です。記録を書くのはドライバー(または運行記録計)です。AIは記録を作りません。日報の記入そのものを短くする方法はAI日報作成の実際で紹介しました。
荷主への連絡文を下書きする
遅延の連絡、荷待ち改善のお願い、運賃改定の申し入れ。宛先は荷主の購買部門や現場の担当者です。書き出しに迷う文面ほど、下書きを任せる価値があります。事実・原因・対応・今後の見通しを箇条書きで渡し、「取引先に失礼にならない文面で、A4半分にしてください」と頼みます。金額と条件を詰めるのは経営者です。
ドライバー教育資料をつくる
輸送安全規則は、運転者への指導・監督と、その日時・場所・内容などの記録の3年間保存を求めています[3]。社内のヒヤリハット報告から個人名を伏せて読み込ませ、ケース教材と確認テストの下書きを作らせます。題材は後退時の接触や荷崩れ、夏場の熱中症など、季節に合わせて選びます。外国人や高齢のドライバー向けに、同じ教材のやさしい日本語版を下書きさせることもできます。指導を行い記録を残すのは人です。
大手物流のAI活用事例から、中小が借りられること
ここで挙げる2つの事例は、どちらも大手が自社向けに開発したシステムです。中小がそのまま真似できる規模ではありません。参考になるのは順番です。
佐川急便のグループ会社であるSGシステムは、2019年に配送伝票の入力を自動化するAI-OCR(文字を読み取る仕組み)を開発しました。入力作業は月8,400時間減ったと同社は公表しました[7]。アルフレッサとヤマト運輸は2021年8月3日、アルフレッサの首都圏の支店で、配送業務量をAIで予測するシステムと配車計画システムの導入を始めると発表しました。配送生産性は最大20%向上する見込み(両社の予想値)としています[8]。
2つの事例はどちらも、先に情報をデータとして揃えました。SGシステムは佐川急便の紙の配送伝票を文字データにし[7]、アルフレッサは蓄積してきた販売・物流・商品・需要トレンドのデータを予測に使う計画を示しました[8]。FAXと紙の乗務記録を文字にするだけなら、専用システムを開発しなくても生成AIで試せます。
点呼と法定記録は、AIに任せない業務として先に決める
任せない業務は、安全にかかわる判断と、法令で事業者に義務づけられた記録の最終確認です。ここを先に決めておけば、社内の利用者が増えても、AIの誤りが運行の判断や法定記録にそのまま入ることを防げます。
記録 | 保存期間 | AIの関わり方 |
|---|---|---|
点呼の記録(第7条) | 1年 | 関わらせない。確認と記録は運行管理者が行う |
業務の記録(第8条) | 1年 | 集計と抜けの指摘まで |
運行指示書(第9条の3。対面等の点呼ができない運行で作成) | 運行終了日から1年 | 文面の下書きまで。指示は運行管理者 |
事故の記録(第9条の2) | 3年 | 再発防止策の文案まで |
指導・監督の記録(第10条) | 3年 | 教材の下書きまで |
出典: 貨物自動車運送事業輸送安全規則[3]
点呼は、酒気帯びの有無と、疾病・疲労・睡眠不足などで安全に運転できないおそれがないかの確認手続きです[3]。規則は対面のほか「対面による点呼と同等の効果を有するものとして国土交通大臣が定める方法」を認めています[3]。遠隔点呼や自動点呼の機器は、この枠組みで運用されます。要件は国土交通省の告示と通達で確認が要ります。生成AIに点呼の可否を判断させる運用は、当社は勧めません。ここは人の仕事です。
運行の可否も人が決めます。天候、道路状況、ドライバーの体調を見て「今日は出さない」と決めるのは運行管理者です。AIが出した便の組み合わせや到着見込みは、参考情報として扱います。
任せない対象の2つ目は個人情報です。運転者等台帳には健康状態や事故の概要が載ります[3]。どちらも機微な情報です。個人情報保護委員会は、個人データを含む指示を生成AIに入力する場合、提供事業者がそのデータを機械学習に使わないことなどを十分に確認するよう求めています[9]。当社は、ドライバーの氏名と健康情報は入力しない、という決まりを社内ルールの最初に書くことを勧めます。委ねてよい業務の見極め方はAIに任せてはいけない業務の見分け方で詳述しました。
試す順番は、受注のテキスト化から
急ぐ必要はありません。5業務を同時に始めると、配車係の負担が一時的に増えます。効果を確かめやすい順に、1つずつ進めます。
- 1週目: 過去1週間分のFAX受注を10枚選び、テキスト化させて原本と照合する。読み違いの件数を数える
- 2週目: 翌日の配車表から、ドライバー向けの指示文を作らせる。手書きの場合と比べて何分短くなったかを測る
- 3〜4週目: 1か月分の乗務記録から、荷主別の荷待ち時間を集計させる。数字を経営者が見て、荷主に申し入れる材料になるかを判断する
なぜ受注からなのか。正解が手元にあるからです。原本のFAXと照らせば、読み取りの正誤を誰でも検証できます。最初に試す指示文は、次のようなイメージです。
添付は荷主から届いたFAXの画像です。荷主名、集荷日、積地、卸地、品名、個数、重量、時間指定を表にしてください。読み取れない文字は推測せず「不明」と書いてください。
以下の配車表の各行を、ドライバー向けの連絡文にしてください。積地・卸地・時間指定・注意事項の順で、1人あたり5行以内にしてください。
「読み取れない文字は推測しない」と書く理由ははっきりしています。生成AIは、読めない箇所にもっともらしい数字を補うことがあるからです。重量や時間指定の読み違いは、そのまま過積載や延着につながります。
測る数字は3つです。配車係が事務に費やした分数、転記の誤りの件数、荷待ち時間を把握できた荷主の数。1か月後にこの3つを比べれば、継続の可否を経営者が決められます。
社内に広げるときの進め方と費用
1人が習得しても、入力してよい情報の範囲と指示文の共有先がなければ、社内では使われません。最初の1か月で決めるのは2つです。うまくいった指示文を共有フォルダに集めること。入力してよい情報といけない情報を、A4用紙1枚に書き出すこと。
業務の洗い出しから進めたい場合はAI導入コンサルティングをご利用ください。受注・配車・記録のどこから着手するかを、一緒に決めます。経営者・幹部がご自身でAIを動かし、自社のどの業務に充てるかを見極められるようにしたい場合はAI研修があります(対面のみ。社員の同席もできます)。料金は受講者1人20万円(税別)、標準は2時間×5回・計10時間です(2026年10月時点)。
研修や機器の導入には、国の助成金や補助金を申請できる場合があります。ただし研修の助成金(人材開発支援助成金)の対象は雇用保険の被保険者です[10]。代表取締役は被保険者にならず、取締役も従業員としての実態がある場合を除いて被保険者になりません[11](2026年10月時点)。運送業向けの制度と申請時期は運送業の補助金・助成金にまとめました。助成金を使う研修は申請用のカリキュラム(各回2時間10分・計10時間50分)で行い、申請書は貴社か顧問の社会保険労務士が作成します。受講料は助成金の有無で変わりません。対象になるかは、契約の前に確かめてください。
まとめ
運送業でAIを取り入れるなら、最初に試すのは、事務所に届いたFAX受注10枚を生成AIでテキストにし、原本と照らすことです。読み違いの件数を数えます。その数で、自社の受注業務をどこまで任せられるかがわかります。運行の判断と点呼、法定記録の最終確認は、これまでどおり人が持ちます。
自社のどの業務から手を付けるのがよいかを確かめたい方は、1分でわかるAI活用度診断をお試しください。
参考文献・出典
- トラック|建設業・ドライバー・医師の働き方改革総合サイト はたらきかたススメ — 厚生労働省(参照 2026-10-10)
- トラック運転者の改善基準告示 — 厚生労働省 自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト(参照 2026-10-10)
- 貨物自動車運送事業輸送安全規則 — e-Gov法令検索(デジタル庁)(参照 2026-10-10)
- 物流革新緊急パッケージ — 我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議(令和5年10月6日・国土交通省掲載)(参照 2026-10-10)
- トラックドライバーの1運行当たりの平均拘束時間に関する調査結果の公表 — 国土交通省(2026年7月10日)(参照 2026-10-10)
- 改正貨物自動車運送事業法(令和7年4月1日施行)について — 国土交通省(参照 2026-10-10)
- 給報AI-OCR利用枚数で国内No.1を2年連続獲得 — SGシステム株式会社(2026年6月4日)(参照 2026-10-10)
- ビッグデータ・AIを活用した配送業務量予測および適正配車のシステム導入について — ヤマト運輸株式会社(2021年8月3日・ヤマトホールディングスのサイトに掲載。アルフレッサとの共同発表)(参照 2026-10-10)
- 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等 — 個人情報保護委員会(2023年6月2日)(参照 2026-10-10)
- 人材開発支援助成金 支給要領(事業展開等リスキリング支援コース・令和8年8月3日版) — 厚生労働省(参照 2026-10-10)
- 雇用保険の被保険者 — 厚生労働省 愛媛労働局(参照 2026-10-10)
※本記事の制度・数値は2026年10月時点の情報にもとづく一般的な整理で、特定の導入実績を示すものではありません。実務での判断は最新の法令・告示と所轄の運輸支局・労働基準監督署の案内でご確認ください。


