行政書士のAI活用は、許認可申請の下書きと必要書類の案内までが範囲です。書類を完成させて報酬を得る行為は、行政書士に限られています[1]。
条文の話から始めます。2026年に改正があり、番号が動きました。ここを間違えると、顧客への説明が食い違います。
2026年1月に条番号が変わりました
先に確認しておきます。令和7年法律第65号が2025年6月13日に公布され、2026年1月1日に施行されました[2]。
改正で職責規定が新設されました。第1条が使命、新設された第1条の2が職責です[5]。その結果、条番号が繰り下がりました。
内容 | 改正前 | 現行 |
|---|---|---|
業務(官公署に提出する書類の作成) | 第1条の2 | 第1条の3 |
代理・相談 | 第1条の3 | 第1条の4 |
業務の制限(非行政書士の禁止) | 第19条(第1条の2を引用) | 第19条(第1条の3を引用) |
インターネット上の解説記事の多くは、まだ旧番号のままです。 2025年以前に書かれたものを引用するときは、番号を現行に直してください。顧客向けの資料に古い番号が残っていると、そこだけで信頼を落とします。
もう1つ、AIに関わる改正が入りました。新設された第1条の2第2項は「行政書士は、その業務を行うに当たつては、デジタル社会の進展を踏まえ、情報通信技術の活用その他の取組を通じて、国民の利便の向上及び当該業務の改善進歩を図るよう努めなければならない」と定めています[1]。情報通信技術の活用が、努力義務として条文に入りました。
独占されているのは「書類の作成」です
条文を読みます。第1条の3第1項はこう定めています[1]。
行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(略)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
電磁的記録が明示されています。紙の書類でも電子ファイルでも扱いは同じです。電子申請の画面に直接入力する場合も、この「作成」にあたります。媒体の違いは関係ありません。
第19条第1項が制限をかけています。「行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て、業として第一条の三に規定する業務を行うことができない」[1]。
日本行政書士会連合会の会長談話は、この「いかなる名目によるかを問わず」が2026年1月施行の改正で加わったものだと説明しています[2]。会費、手数料、コンサルタント料といった名目でも、対価を得て業務を行えば違反にあたると明確化されました[2]。同じ改正で第23条の3に両罰規定が入り、違反者が所属する法人にも100万円以下の罰金が科されます[2]。
ここから実務上の結論が出ます。行政書士が生成AIを道具として使うことに制限はありません。 制限がかかるのは、行政書士でない事業者がAIツールで顧客の許認可書類を作り、対価を得る形です。AIが出した下書きを点検して確定する行為も「作成」に含まれ、その主体は行政書士です。
なお第19条第1項にはただし書があります。「定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続について、当該手続に関し相当の経験又は能力を有する者として総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合」は制限の外です[1]。どの手続が指定されているかは総務省令を確認してください。
許認可の件数から、下書きの対象を選ぶ
どの許認可を扱うかで、AIの使い方が変わります。件数の多い分野から見ます。
建設業許可は前年度から123業者(0.03%)の増加で、3年連続の増加です[3]。宅建業者は前年度比1,708業者増で11年連続の増加です[6]。一方で貨物自動車運送事業は467者の減少でした[7]。
母数が大きいのは建設業です。しかも建設業法第3条第3項は「第一項の許可は、五年ごとにその更新を受けなければ、その期間の経過によつて、その効力を失う」と定めています[4]。5年ごとに全業者が更新の手続きをします。 定型の作業が繰り返し発生する分野なので、下書きの効果が出やすくなります。
下書きにできるのは、必要書類の一覧作成、依頼者への案内文、提出書類のチェックリスト、変更届の期限の一覧です。行政書士の会員数は個人54,186、法人1,719(令和8年4月1日現在)で[8]、1人あたりが抱える案件は少なくありません。案内文の作成時間を削るだけでも効果が出ます。
建設業許可でAIに任せられない5つの判断
下書きと判断を分けます。境目は条文にあります。建設業法第7条が定める許可の基準を見ると、どこが人の仕事かが分かります[4]。
1つ目は経営業務の管理責任者の該当性です。第7条第1号は「建設業に係る経営業務の管理を適正に行うに足りる能力を有するものとして国土交通省令で定める基準に適合する者であること」としています[4]。省令の基準に誰を当てはめるかは判断です。
2つ目は営業所技術者の資格と実務経験です。第7条第2号は、指定学科卒業後5年以上または大学等卒業後3年以上、あるいは10年以上の実務経験を求めています[4]。年数の数え方に判断が入ります。3つ目は誠実性で、第3号が「請負契約に関して不正又は不誠実な行為をするおそれが明らかな者でないこと」としています[4]。
4つ目は財産的基礎です。第4号の要件について、国土交通省は一般建設業で「自己資本が500万円以上」であることなどを示しています[9]。5つ目は申請区分の選択です。新規、許可換え新規、般・特新規、業種追加、更新のどれにあたるかは、依頼者の状況を聞いて決めます。
作業 | AIの下書き | 人の判断 |
|---|---|---|
必要書類の一覧作成 | 使える | 最終確認 |
依頼者への案内文 | 使える | 最終確認 |
経営業務の管理責任者の該当性 | 使わない | 必須 |
実務経験年数の算定 | 使わない | 必須 |
申請区分の選択 | 使わない | 必須 |
5つの判断は、いずれも依頼者から事実を聞き取らないと決まりません。 AIに聞いても答えは出ません。聞き取った事実を省令の基準に当てはめる作業も、責任を負う人が行います。
逆に言えば、聞き取りの項目を漏れなく並べるところまではAIで作れます。「経営業務の管理責任者の要件を確認するために、依頼者に聞くべき事項を列挙してください」という使い方です。出てきた一覧を自分の経験で補正すれば、若手への引き継ぎ資料にもなります。任せる業務と任せない業務の見分け方はAIに任せてはいけない業務にまとめています。
電子申請はGビズIDが前提になっています
制度側も動いています。国土交通省は建設業許可と経営事項審査の電子申請システム(JCIP)について、令和5年1月から受付を開始したとしています[10]。
東京都は令和5年10月23日の午前9時から利用を開始しました[11]。対象は許可申請(新規・業種追加・更新)、各種変更届・廃業届、経営事項審査申請です[11]。利用にはGビズIDの取得が必須です[11]。手数料はPay-easyで決済し、書面による申請・届出も引き続き受け付けられています[11]。
代理人での提出も想定されています。東京都は各様式に「代理人記入欄」を2024年2月14日に追加しました[12]。
電子申請が増えると、行政書士の仕事の中身が変わります。窓口へ行く時間が減ります。そのぶん、書類の内容を確認する時間の比重が上がります。
依頼者側の準備も変わります。GビズIDの取得には日数がかかるため、申請の相談を受けた時点で取得状況を確認しておく必要があります。ここを最初の打ち合わせのチェック項目に入れておくと、後の日程が崩れません。確認の精度を上げる方向にAIを使うほうが、事務所としての効果は大きくなります。
依頼者の情報をどこまで入力してよいか
守秘義務があります。行政書士法第12条は次のように定めています[1]。
行政書士は、正当な理由がなく、その業務上取り扱つた事項について知り得た秘密を漏らしてはならない。行政書士でなくなつた後も、また同様とする。第22条第1項の罰則は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金で、同条第2項により告訴がなければ公訴を提起できません[1]。
個人情報保護委員会は2023年6月2日の注意喚起で、個人データを含むプロンプトを入力する場合には「当該生成AIサービスを提供する事業者が、当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること」としています[13]。
実務では置き換えを決めておきます。依頼者名をA社、代表者名をB氏、住所を都道府県までに置き換えてから入力する形です。条文、通達、手引の記載要領は公開情報なので、そのまま入力できます。同じ考え方は社労士事務所の生成AI活用にも書きました。
なお日本行政書士会連合会が生成AIの利用指針を公表しているかを2026年9月13日時点で確認しましたが、見つかりませんでした。指針が無い以上、判断の根拠は第12条と個人情報保護委員会の注意喚起になります。
事務所で決める3つのこと
長い規程は要りません。3つで足ります。
- 入力の線引き: 依頼者が特定できる情報は入力しない。入力前に社名・氏名・住所を置き換える
- 確認の担保: AIが出した条文番号・要件・様式は、必ず官公庁の手引と突き合わせる
- 責任の所在: 申請書類を完成させる判断は行政書士が行う
2つ目は特に大きな意味を持ちます。2026年1月の条ずれのように、条文番号は変わります。AIの学習内容は改正に追いつきません。手引の版が古いまま案内すると、依頼者が集めた書類が使えなくなります。確認の手順を決めておけば、この事故は起きません。士業全体での使い分けは士業のAI活用にまとめています。
まとめ
最初の一歩は、いちばん件数の多い許認可を1つ選ぶことです。その手引を読み込ませ、架空の事例で必要書類の一覧と案内文を出させ、自分が作ったものと比べてください。差が出た箇所が、任せられる範囲の境目です。
依頼者の実データは使わないでください。架空の事例で十分に検証できます。事務所としてどこまで任せるかを決めたい場合は、AI顧問で毎週の定例を通じて一緒に決めます。現在地を確かめるなら1分でわかるAI活用度診断、個別の相談は無料相談へどうぞ。
※条文・統計・制度の内容は2026年9月13日時点のものです。改正と統計の更新があるため、実務での判断は最新の原典でご確認ください。
参考文献・出典
- 行政書士法 — e-Gov法令検索(デジタル庁)(参照 2026-09-13)
- 【会長談話】行政書士法第19条第1項及び第23条の3の改正の趣旨等について — 日本行政書士会連合会(参照 2026-09-13)
- 全国の建設業許可業者数は3年連続で増加 — 国土交通省(参照 2026-09-13)
- 建設業法 — e-Gov法令検索(デジタル庁)(参照 2026-09-13)
- 【会長談話】「行政書士法の一部を改正する法律」の成立について — 日本行政書士会連合会(参照 2026-09-13)
- 令和6年度宅地建物取引業法の施行状況調査結果について — 国土交通省(参照 2026-09-13)
- 貨物自動車運送事業者数の推移(業種別) — 国土交通省(参照 2026-09-13)
- 各都道府県の行政書士会所在地・会員数等 — 日本行政書士会連合会(参照 2026-09-13)
- 建設産業・不動産業:許可の要件 — 国土交通省(参照 2026-09-13)
- 建設業許可・経営事項審査電子申請システム(JCIP) — 国土交通省(参照 2026-09-13)
- 建設業許可・経営事項審査に係る電子申請の開始について — 東京都都市整備局(参照 2026-09-13)
- 建設業許可(申請・変更)の手引・申請書類 — 東京都都市整備局(参照 2026-09-13)
- 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について — 個人情報保護委員会(参照 2026-09-13)


