人手不足の会社がAIを使う理由は、業務効率化という言葉では足りません。募集をかけても人が来ないという現実に、別の手で応えるためです。求人票を出す、単価を上げる、派遣に頼む。この3つを試したあとで、まだ足りない分をどうするかという話になります。

先に結論を書きます。AIで削るべきは、採用で埋めようとしていた仕事のうち、事務作業の部分です。接客や判断を任せる話ではありません。まず数字を見てから、手順に入ります。

数字で見る現在地

議論の前に、いま何が起きているかを確認します。

表1 人手不足に関する主な数字(2026年8月時点で公表されているもの)

指標

数値

出典の時点

人手不足倒産(2025年度)

441件(前年度比約1.3倍・過去最多)[1]

2026年4月公表

業種別の内訳

建設112件、道路貨物運送55件、老人福祉22件、飲食21件[1]

同上

人手不足倒産(2026年上半期)

227件(前年同期202件から12.4%増・過去最多)[2]

2026年7月公表

正社員が不足している企業

51.3%[3]

2026年7月調査

非正社員が不足している企業

28.8%[3]

同上

読み取れることは2つです。1つは、倒産の理由として人手不足が定着したこと。もう1つは、正社員の不足が高止まりする一方、非正社員は3割を下回って改善していることです[3]

つまり足りないのは「頭数」ではありません。任せられる正社員です。ここがAIの話とつながります。

任せられる人が足りない状態では、業務が特定の社員に集まります。その社員が抜けると回らないので、会社は次の採用を急ぎます。急いで採ると教える余裕がなく、また同じ人に業務が集まります。この循環を止めるには、集まっている業務そのものを軽くするしかありません。採用の速度では追いつかない部分を、道具で埋める話になります。

「採用で埋める」が成立しにくくなった理由

採用が悪いわけではありません。前提が変わりました。

1つ目は母集団です。 生産年齢人口は減り続けています。国土交通省の資料では、2020年度の約7,509万人が2040年度に約6,213万人へ、約2割減る見通しが示されています[4]。全業種が同じ池から釣っている状態で、中小企業が大企業より高い条件を出すのは簡単ではありません。

2つ目は時間です。 求人を出して面接、内定、入社、そして独り立ち。事務職でも半年、専門職なら1年以上かかります。いま忙しい会社にとって、この時間は長すぎます。

3つ目は定着です。 採れても辞められれば元に戻ります。辞める理由の上位には、残業と属人化した業務の負担が並びます。入社した人が最初に任されるのが、前任者が抱えていた雑多な事務であることも多いはずです。人を採る前に業務を減らさないと、採った人がまた辞める構造が残ります。

だから順番が変わります。募集を止める話ではありません。募集と並行して、いまの人数で回る形を作ることになります。

AIで減るのは何時間か

抽象的な期待では稟議が通りません。業務を分解して、時間で見ます。

表2 中小企業でよくある事務作業と、AIで短くなる部分

業務

1件あたりの時間

AIが担う部分

残る時間

議事録の清書

40分

録音から要約と決定事項の抽出

確認5分

見積の項目出し

60分

過去案件をもとにした項目の洗い出し

単価入力と検算20分

求人票・募集文の作成

90分

職務内容の下書きと表現の整え

事実確認15分

請求書の入力

1件3分

読み取りと仕訳候補の提示

目視確認1分

問い合わせの一次回答

15分

過去の回答をもとにした下書き

確認と送信3分

5つ足すと、月あたり数十時間の規模になります。従業員20名の会社で事務が2名なら、1人分の勤務時間の3割から4割に相当する量です。これは「1人採用しなくても回る」という意味ではありません。採用が決まるまでの半年を、いまの人数で持ちこたえられるという意味です。

この量を稟議に載せるときは、金額に換算しておくと通りやすくなります。月40時間を時給2,000円で見れば8万円分、年間で約96万円になります(2026年8月時点の一般的な人件費水準での試算)。採用広告や人材紹介の費用と並べれば、比較の土台に乗ります。

ここを取り違えると社内が荒れます。AIを入れる目的が「人を減らすこと」だと受け取られた瞬間、現場の協力は得られません。目的は、募集が埋まらない期間の負荷を下げることです。

1人分の仕事を分解する手順

やることは棚卸しです。特別な道具は要りません。

  1. 辞めた人・採りたい人の仕事を、作業単位で紙に書き出す(15〜30項目になります)
  2. 各項目に「1件あたりの時間」と「月の件数」を書く
  3. 社外に出るか、後から誤りに気づけるかで印を付ける
  4. 印が安全側の項目だけを、AIの対象に選ぶ
  5. 残った項目が、本当に採用で埋めるべき仕事になります

この5番目が肝です。求人票に「事務作業全般」と書いていた会社が、棚卸しの結果「電話対応と来客対応、そして数字の検算」だけを募集要件にできた、というイメージです。棚卸しの粒度は細かいほど有効です。「請求業務」で止めず、「請求書のPDFから金額と取引先を入力する」まで割ってください。この粒度なら、AIに任せられる部分と人が確認する部分が線で分かれます。要件が絞れれば、時短勤務やシニア層でも担える形になり、母集団そのものが広がります。

判定の詳しい基準はAIに任せてはいけない業務の見分け方にまとめました。

業種別に見る、最初に削る仕事

同じ「事務作業」でも、業種によって量の多い書類が違います。自社に近いところから読んでください。

建設業。 安全書類と施工体制台帳、日報、写真の整理。現場から戻った夜に机で片付けている仕事が対象です。上限規制が入った以降、この時間が残業の中心になっています。

運送業。 点呼記録、配車の連絡、荷主への報告文。ドライバー不足が慢性化している業種なので、事務側の時間を削って配車担当を現場に近づける効果が大きくなります[3]

介護・福祉。 介護記録と申し送り、家族向けのお便り。記録の下書きを音声から作る形が定番です。老人福祉事業の人手不足倒産は2025年度に22件で、業種別でも過去最多を更新しました[1]

小売・卸。 発注の相談メモ、商品説明文、クレームの一次回答。店舗が少ないほど、店長が事務を抱えている構造になりがちです。

士業・専門サービス。 申請書類の下書き、規程のたたき台、顧問先への説明文。ただし条文番号と申告額は人が検算します。顧問先へ横展開できる立場でもあるため、自事務所で試した手順がそのまま提案材料になります。

共通しているのは、紙とテキストの仕事が先に軽くなることです。設備投資が必要な自動化は、その次で構いません。

置き換えてはいけない仕事

期待が先に立つと、危ない場所に手が伸びます。次の3つは対象から外してください。

  • 技能そのもの(施工、調理、修理、介助の動作)。AIは書類を助けますが、手は動かしません
  • 関係を作る仕事(顧客との折衝、採用面接の合否、クレームの最終対応)。判断の責任が人に残ります
  • 数字の確定(見積単価、申告額、請求区分)。入力の自動化までは可能でも、検算は人が担います

3つに共通するのは、間違えたときの損害が大きく、後から気づきにくいことです。ここを外さずに事務作業だけを削る。それが現実的な進め方になります。

費用と制度の目安

投資額の感覚も押さえておきます。有料プランの契約は1人あたり月20ドル前後、事務2名なら年間5万円程度です。研修を入れる場合は、中小企業なら人材開発支援助成金で経費の75%が助成される制度があります(2026年8月時点)[5]

費用の考え方と助成金適用後の実質負担はAI研修の費用相場と助成金後の実質負担で試算しました。採用広告1回分の予算と比べると、桁が1つ違うことが分かります。

社内にどう説明するか

社内への説明でつまずく会社が多いところです。言い方を1つ変えるだけで、通り方が変わります。

避けたい言い方は「AIで省人化する」です。従業員は自分の仕事が消えると受け取ります。実際に消えるのは残業と待ち時間のほうです。伝えるなら、「募集が埋まらない間、いまの人数で回すために使う」と言い切るほうが正確です。

もう1つ効くのは、削った時間の使い先を先に決めておくことです。空いた2時間を何に充てるのか。顧客への提案、現場の巡回、後輩の指導。ここが決まっていないと、時間が空いた分だけ別の仕事が積まれ、現場は「何も変わらなかった」と感じます。使い先を先に宣言しておけば、削った時間が成果として見えます。

評価の扱いも先に決めます。AIを使って早く終わらせた人が損をする仕組みなら、誰も使いません。処理件数から離れて、空いた時間で何をしたかを見る形に寄せてください。

人が辞めない効果のほうが大きい

時短の効果は分かりやすいのですが、実務でより効くのは離職の抑制です。

事務作業が減ると、残業が減ります。残業が減ると、繁忙期の疲弊が薄まります。ここまでは想像しやすいところです。もう1つ効くのが属人化の緩和です。過去の議事録や見積、回答文がAIから引ける状態になれば、「あの人しか分からない」領域が狭まります。担当者が休んでも回る職場は、辞めにくい職場でもあります。

引き継ぎの負担も変わります。手順書は一から書かずに、過去のやりとりから下書きを作れます。引き継ぎ資料が薄いまま退職されるより、はるかに安全です。

反対されたときの答え方

現場から出る反対意見は、だいたい3種類に収まります。

「間違えたら誰が責任を取るのか」。これは正当な問いです。答えは「確認工程を残したうえで、確定する人を決める」になります。責任の所在を変えないことが前提です。

「覚える時間がない」。導入の初週に、対象業務を1つに絞る理由がここにあります。覚えるのは1つの手順だけで、練習は業務時間内に置きます。

「情報漏洩が心配」。法人向けプランでは入力内容を学習に使わない設定が用意されていることが多く、まず自社の契約プランでその扱いを確認するのが先です。渡してよくない情報を先に決めておけば、検討は数日で終わります。

3つとも、技術の話ではありません。決めれば済む話です。決める人が社長であるところが、この取り組みの特徴になります。

反対意見が出ること自体は健全です。問題になるのは、意見が出ないまま「検討中」で止まる状態です。半年たっても何も変わらない会社は、たいてい誰も反対していません。関心がないだけです。反対が出る職場のほうが、実際には早く動きます。

30日で試す形

大きな計画は不要です。1か月あれば判断できます。

1週目は、辞めた人か採りたい人の仕事を棚卸しします。2週目は、その中から件数の多い1業務だけを選び、AIに下書きを作らせます。3週目は、下書きの手直しにかかった時間を記録します。4週目に、月の削減時間を計算して、募集要件を書き換えるかを決めます。

判断の基準は1つだけです。「募集要件から外せる作業が見つかったか」。見つかれば、次の求人は違う条件で出せます。見つからなければ、対象業務の選び方が合っていません。別の業務でもう1か月試してください。

記録の付け方も決めておきます。作業前の所要時間、AIを使った後の所要時間、手直しの内容。この3つを1行ずつ残すだけで足ります。表計算のシート1枚で構いません。4週目に見返したとき、感覚ではなく数字で判断できます。この記録が、次の求人票と稟議書の材料になります。

まとめ

人手不足は景気の問題ではなく、人口構造の問題です[4]。だから「いつか落ち着く」という前提は使えません。

  • 募集は続ける。並行して、いまの人数で回る形を作る
  • 削るのは事務作業。技能・関係・数字の確定は人に残す
  • 業務を棚卸しし、募集要件を書き換えられるかで判断する
  • 費用は月数千円から。研修は助成金の対象になり得ます[5]

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※本記事の数値は各調査の公表時点(2026年8月時点で確認できるもの)です。制度の要件は改正されるため、申請前に最新の要領をご確認ください。

参考文献・出典

  1. 人手不足倒産の動向調査(2025年度) — 帝国データバンク(参照 2026-08-25)
  2. 倒産集計 2026年上半期報(1月〜6月) — 帝国データバンク(参照 2026-08-25)
  3. 人手不足に対する企業の動向調査(2026年7月) — 帝国データバンク(参照 2026-08-25)
  4. i-Construction 2.0 〜建設現場のオートメーション化〜 — 国土交通省(参照 2026-08-25)
  5. 人材開発支援助成金 — 厚生労働省(参照 2026-08-25)