生成AIの情報漏洩対策とは、入力が学習に使われる経路、提供事業者の側で漏れる経路、社員が会社の外へ持ち出す経路を分けて、それぞれに手当てをすることです。「AIに任せると情報が漏れる」という心配には、この3つが混ざっています。

1つ目は契約するプランで決まります。2つ目は、クラウド会計や勤怠管理を選ぶときと同じ基準で判断できます。公表された事故で目立つのは3つ目です。

しかも顧客や社員の個人情報が絡んだ時点で、個人情報保護法の報告義務がかかります。社員が個人のアカウントに顧客名簿を貼ったとき、会社は何日以内に誰へ報告するのか。速報は「速やかに」(委員会のガイドラインが示す目安は概ね3〜5日以内)、確報は30日以内と委員会規則で決まっています[16]。

「漏れる」には3つの経路があります

経路ごとに、起きることと手当てを並べます。

表1 生成AIで情報が漏れる3つの経路

経路

何が起きるか

手当て

決める人

学習への利用

入力した内容がモデルの改善に使われる

既定で学習に使わない法人向けプランを契約する

経営者

事業者側の事故

提供事業者の不具合や攻撃で外に出る

他のクラウドと同じく、契約・認証・ログの有無を確かめる

情報システムの担当者

社員の持ち出し

個人の端末やアカウントに業務データを入れる

使ってよい環境を用意し、入れない情報を決める

経営者と部門の責任者

分けると、決める人が変わります。1つ目は契約の判断なので経営者が決めます。2つ目には、既存のクラウドの審査基準をそのまま当てはめられます。新しく決める必要があるのは3つ目だけです。

1つ目の議論だけで「危ないから禁止」と結論を出すと、その結論は法人向けプランを契約していない状態を前提にしたものになります。

法人向けプランは既定で学習に使われません

主要3社の公式文書を2026年9月26日に確認し直しました。

表2 主要3社の法人向けサービスにおける入力の扱い(2026年9月時点)

サービス

入力の学習利用

保存期間の既定

補足

ChatGPT Business / Enterprise / Edu(OpenAI)

既定で学習に使わない[1]

ChatGPT Work の会話はワークスペースの保存設定に従い、削除した会話は原則30日以内に完全削除される予定[1]

保存時・通信時のデータを暗号化[1]。記載は Work Cloud の文書で確認

OpenAI API

2023年3月1日以降、オプトインしない限り学習に使わない[2]

不正利用を監視するログは最長30日(法律で長い保存が求められる場合を除く)[2]

-

Claude for Work・Anthropic API などの商用製品

既定で入出力を学習に使わない[3]

Claude Enterprise は既定で無期限。管理者が30日以上の期間を設定できる[17]

顧客が提供を選んだ場合と、評価ボタンでフィードバックを送った場合は例外(その会話全体を最長5年保存)。2026年8月18日更新[3]

Google Workspace の Gemini

事前の許可や指示なしに顧客データを学習に使わない[6]

Gemini in Workspace は管理者が90日〜無期限で設定。Gemini アプリは既定18か月[6]

プロンプトは顧客データとして扱う。2026年8月14日更新[6]

読むべきは「既定で」の3文字です。 何も設定しなくても、学習に使われない状態から始まります。

確かめ方も決まっています。各社の文書は、対象をプラン名で区切っています。自社が契約しているプランの名前が、その文書に載っているかを見てください。「ChatGPTを使っている」だけでは判断できません。

学習に使わないことと、事業者の誰も内容に触れないことは、別の話です。OpenAIのAPIでも、不正利用を監視するためのログは原則として最長30日残ります[2]。保持期間と、事業者の従業員が内容を見られる条件は、個人情報を入れてよいかの判断にも関わります。

個人向けプランは本人の設定しだいです

Claudeの無料・Pro・Maxでは、会話をモデルの改善に使うかを利用者が選び、プライバシー設定でいつでも変えられます[4]。2025年8月の規約改定で、改善への利用を許可した場合の保存期間は30日から5年に延びました[5]。この改定は、Claude for WorkやAPIには適用されません[5]。

社員が個人契約のまま業務に使うと、会社は全員の設定を点検し続けることになります。人が増えれば、どこかで抜けが出ます。業務で使うなら、会社として法人向けプランを契約してください。ツールの選び方は社長が最初に触るAIツールの選び方にまとめました。

事故は会社が把握していないアカウントで起きています

2026年9月3日、RIZAP株式会社が、外部の生成AIサービスへの顧客情報の誤アップロードを公表しました[12]。社員が特定保健指導管理システムのデータを集計する作業中に、個人で使っているサービスへ対象データを上げたものです[12]。

データには保険証記号番号・氏名・生年月日などと、要配慮個人情報にあたる支援形態と疾患情報が含まれていました[12]。同社は個人情報保護委員会への報告を済ませています[12]。事業者への照会で、第三者の閲覧と学習利用の可能性はないと確認した一方、事業者の役職員が閲覧できる状態にあったかは、公表時点でも確認中としています[12]。

経路は表1の3つ目そのものです。会社が契約したアカウントなら、学習利用の除外も、事業者側で閲覧できる条件も、契約前に確かめておけます。個人の契約では、事故の後に事業者へ問い合わせるしかありません。

生成AIを禁止しても、この経路は閉じません。締切は変わらず、社員は自分のスマートフォンから無料のサービスに資料を貼ります。会社にはログが残らず、誰が何を入れたかを後から調べられません。個人情報保護法の第24条は、従業者に個人データを扱わせる会社に、必要かつ適切な監督を求めています[8]。把握できない利用は、監督できません。

公的な指針も、使うなとは書いていません。総務省と経済産業省のAI事業者ガイドライン(第1.2版・2026年3月31日)は、AI利用者に対し、個人情報や機密情報を不適切に入力しないよう注意を払うことを求めています[15]。点検と責任の所在を決めたうえで使う、という立場です。

手当ての順番は次のとおりです。

  1. 法人向けプランを契約し、使ってよいアカウントを配る
  2. 入れてはいけない情報を、自社の業務の言葉で具体的に書く
  3. 社外に出す文書を確定する責任者を、役職で決める

ルールの文面は、A4用紙1枚・7項目で書けます。項目と書き方の例は生成AIの社内ルールのひな形に載せました。

個人情報を入力してよいかは条文で決まります

個人情報保護委員会は2023年6月2日の注意喚起で、事業者に2つの確認を求めました[7]。入力が、特定した利用目的の達成に必要な範囲内か。そして、個人データを含むプロンプトを入れるなら、提供事業者がそのデータを機械学習に使わないか[7]。本人の同意なく入れたデータが応答の出力以外の目的で扱われると、法に違反する可能性がある、とも書いています[7]。

注意喚起は条文を特定していません。関係する条文を、現行法で並べます。

表3 生成AIへの入力に関係する条文(2026年9月時点の現行法[8])

条文

定めていること

生成AIで問題になる場面

第18条第1項

同意なく利用目的の達成に必要な範囲を超えて扱わない

顧客管理のために集めた名簿を、別の目的で入力する

第23条

漏えい等を防ぐ安全管理措置

誰がどのサービスに何を入れてよいかが決まっていない

第24条

従業者の監督

社員が個人のアカウントで業務データを扱う

第25条

委託先の監督

事業者が入力データを取り扱う契約で使う

第26条

漏えい等の報告と本人への通知

誤入力で漏えいのおそれが生じた

第27条第1項

同意なく第三者に提供しない

事業者が入力を自社の目的に使う

第28条第1項

外国にある第三者への提供の制限

海外の事業者が入力を取り扱う

第三者提供か委託かは、事業者が「取り扱う」かで決まります

実務で質問が集まるのがここです。委員会はクラウドサービスについて、保存したデータに個人データが含まれるかではなく、事業者がその個人データを取り扱うことになっているかで判断する、と示しています[9]。取り扱わないことになっていれば、提供にはあたりません。本人の同意も、委託先としての監督も不要です[9]。監督の義務がかからなくても、第23条の安全管理措置は自社に残ります[8]。条件は、契約条項で取り扱わない旨が定められ、適切にアクセス制御されていることなどです[9]。

海外の事業者のサーバーでも、同じ条件を満たせば第28条の提供にはあたりません[10]。その場合も、相手国の制度を把握したうえでの安全管理措置と、講じた措置を本人が知り得る状態に置くことが求められます[10]。

委員会がこの考え方を生成AIに名指しで当てはめた文書は、AX総合研究所が2026年9月に確認した範囲では見当たりません。そこで、契約前に規約で3点を確かめてください。入力を学習に使わない旨の記載があるか。保持期間は何日か。事業者の従業員が内容を見られるのは、どんな場合に限られるか。読んでも3点が分からないサービスは、個人データを扱う業務に使わない判断が安全です。

漏えいの速報は速やかに、目安は3〜5日です

生成AIへの誤入力が次の4類型のどれかに当たれば、委員会への報告が必要です[11]。

  • 要配慮個人情報が含まれる漏えい等
  • 不正に利用されると財産的被害が生じるおそれがある漏えい等
  • 不正の目的をもって行われたおそれがある漏えい等
  • 本人の数が1,000人を超える漏えい等

どれも「又はそのおそれ」を含みます[11]。漏えいが確定する前の段階から、報告の対象です。病名や健康診断の結果を含むデータなら、本人が1人でも1つ目に当たります。

表4 漏えい等報告の期限(2026年9月時点[11][16])

報告

期限

速報

速やかに(目安は発覚から概ね3〜5日)

確報

発覚日から30日以内

確報(不正の目的によるおそれがある場合)

発覚日から60日以内

確報では、原因や本人の数、再発防止策を含む9項目を報告します[11]。本人への通知も、第26条第2項で義務になっています(通知が困難な場合は、事案の公表などの代わりの措置が認められます)[8][16]。金曜の夕方に発覚して週末に誰も動かなければ、月曜の夕方には発覚から3日が過ぎています。報告の担当者と相談先は、社内ルールに名前で書いておいてください。

2026年7月公布の改正で変わること

改正個人情報保護法は2026年7月10日に成立し、7月17日に公布されました[13]。施行は原則として公布日から2年を超えない範囲内です[14]。委員会のページは2026年9月16日の更新時点でも政令や規則を検討中としており、施行日は決まっていません[13]。

生成AIを使う側に関係する改正内容は次のとおりです[14]。

  • 委託を受けた事業者に、委託業務に必要な範囲を超えて扱わない義務を明文で課すこと
  • 本人の権利利益の保護に欠けるおそれが少ない漏えいで、本人への通知義務を緩めること
  • 違法な第三者提供を、報告の対象に加えること
  • 重大な違反のうち、本人の数1,000人を基準とする大規模な事案に課徴金を設けること

報告の対象や通知を緩める場面の具体的な範囲は、委員会がこれから整える規則等で決まります[13][14]。

統計情報等の作成(統計作成等と整理できるAI開発等を含む)に限って本人同意を不要とする特例も新設されます[14]。公表や書面での合意を条件に、データを提供・取得する側に向けた特例です。日々の業務で生成AIに入力する場面で、2つの確認を省く根拠にはなりません。

まとめ:今週決めるのは契約と報告の担当者

今週決めることは2つです。法人向けプランを会社として契約し、そのアカウントを配ること。そして、漏えいの疑いが出たときに委員会への速報を出す担当者を1人決めることです。前者で、入力が学習に使われない環境を全員に用意できます。後者を決めておけば、ガイドラインが目安とする概ね3〜5日以内に速報を出せます。

取引先から「生成AIの利用状況を書いて出してほしい」と頼まれたときも、この2つがあれば答えられます。書く内容は次の4点です。

  • 契約しているサービス名とプラン
  • 学習に使わないことを示す公式文書の記載
  • 入力を禁じている情報の範囲
  • 出力を人が確認する工程

社員の個人利用を確かめないまま「AIは使っていません」と書くと、後から矛盾します。

出力の誤りへの備えはハルシネーション対策に、人が確認する工程の設計はAIに任せてはいけない業務の見分け方に書きました。

自社の現在地を確かめたい方はAI活用度診断へ。社内ルールと運用の設計を一緒に進めたい場合はAI導入コンサルティング、まず相談したい方は無料相談をご利用ください。

※条文・ガイドライン・各社の規約は2026年9月26日時点の公開情報にもとづきます。規約の改定と改正法の施行で扱いが変わるため、契約や判断の前に最新の原典をご確認ください。

更新履歴:2026年9月26日 個人情報の入力に関する内容を統合し、法人向けプランの既定と保存期間を最新の規約で確認し直しました。

参考文献・出典

  1. ChatGPT Work cloud security — OpenAI(参照 2026-09-26)
  2. Data controls in the OpenAI platform — OpenAI(参照 2026-09-26)
  3. Is my data used for model training?(商用製品) — Anthropic Privacy Center(2026年8月18日更新・参照 2026-09-26)
  4. Is my data used for model training?(個人向け製品) — Anthropic Privacy Center(2026年3月16日更新・参照 2026-09-26)
  5. Updates to Consumer Terms and Privacy Policy — Anthropic(2025年8月28日・参照 2026-09-26)
  6. Generative AI in Google Workspace Privacy Hub — Google(2026年8月14日更新・参照 2026-09-26)
  7. 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等(別添1) — 個人情報保護委員会(令和5年6月2日・参照 2026-09-26)
  8. 個人情報の保護に関する法律 — e-Gov法令検索(デジタル庁)(参照 2026-09-26)
  9. Q7-53 クラウドサービスの利用と第三者提供・委託 — 個人情報保護委員会(参照 2026-09-26)
  10. Q12-3 外国にあるサーバへの個人データの保存 — 個人情報保護委員会(参照 2026-09-26)
  11. 個人データの漏えい等報告について — 個人情報保護委員会(参照 2026-09-26)
  12. 当社における外部生成AIサービスへのお客様情報の誤ったアップロードに関するお詫びとお知らせ — RIZAP株式会社(2026年9月3日・参照 2026-09-26)
  13. 令和8年 改正個人情報保護法について — 個人情報保護委員会(2026年9月16日更新・参照 2026-09-26)
  14. 個人情報保護法等の一部を改正する法律について — 個人情報保護委員会事務局(参照 2026-09-26)
  15. AI事業者ガイドライン(第1.2版)本編 — 総務省・経済産業省(令和8年3月31日・参照 2026-09-26)
  16. 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編) — 個人情報保護委員会(3-5-3-3・3-5-4-5・参照 2026-09-26)
  17. Configure custom data retention controls for Enterprise plans — Anthropic Privacy Center(参照 2026-09-26)